研究課題/領域番号 |
19J40074
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
宮川 美里 宇都宮大学, バイオサイエンス教育研究センター, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2020-01-06 – 2024-03-31
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キーワード | 性決定分子機構 / 膜翅目昆虫 / 性決定遺伝子 / アリ |
研究実績の概要 |
本研究では近親交配のコストを抑制する効果が予想される性決定遺伝子座の複数化が進化したウメマツアリVollenhovia emeryiにおいて、性決定分子基盤の解明を目指している。本種は二つの性決定遺伝子座CSDが独立な染色体上に存在し、少なくとも一方がヘテロ型であれば雌に、両方がホモ型の場合のみ雄になるルールがある。これは本種が二つの独立した性決定初期シグナル経路、およびそれらを最終的な個体の性分化へ統合する機構を持つことを示唆しており、性決定機構の進化を理解する上で興味深いモデルである。 二つの独立な性決定初期シグナルの制御下で正常な性分化が保証される分子機構を解明するため、2021年度は性決定関連遺伝子を用いた機能解析を行った。アリ類ではゲノム編集を含む機能解析の手法がモデル生物ほど確立されていないため、実験を進める上で様々な条件検討が必要であり、手法の確立は非常に困難であった。しかし申請者は、初期胚への核酸導入による責任遺伝子の過剰発現やCRISPR-Cas9法を用いたゲノム編集による表現型の変化を調べる手法を確立し、二つの性決定初期シグナルの獲得の鍵になる責任遺伝子を突き止めることができた。これらの研究結果は、日本動物学会第92回米子大会および第66回日本応用動物昆虫学会大会で発表した。また、2022年度に米国で開催される国際社会性昆虫学会(IUSSI)でも発表する予定である。さらに上記の内容を論文にまとめ、現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では二つの性決定初期シグナルを有するウメマツアリにおいて性決定機構の詳細な分子シグナルカスケードを解明するため、性決定候補遺伝子を用いた機能解析を行なっている。2021年度は、性決定関連遺伝子の候補の1つであるfeminizer(fem)遺伝子における雌型スプライシングアイソフォームのmRNAを合成し、雄に導入して過剰発現させることで表現型が雄から雌に変化することを確かめるため、マイクロインジェクションを用いた機能解析を行った。非モデル生物であるアリでは、初期胚におけるマイクロインジェクション技術が確立されているのはごく一部の種に限られており、産卵数の少ないウメマツアリを用いた実験手法の確立は手探りではあった。しかし様々な工夫を重ね、本種の初期胚への核酸導入やその後の表現型の確認が可能となり、予想通りfemの過剰発現による雄から雌への遺伝子発現レベルでの性転換を示すことができた。加えてCRISPR-Cas9法によるゲノム編集技術も確立し、femの機能阻害によって雌から雄への性転換が生じることも明らかにした。複数の性決定初期シグナルのもとで正常な性分化が保証される上でfemが非常に重要であることをまとめた論文は査読中である。これまでに確立した機能解析の手法は、本年度に実験を進める上で非常に有用であり、今後の研究の発展が期待できることから、研究は概ね期待通り進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
ウメマツアリには二つの性決定初期遺伝子が独立な染色体上に存在し、そのうち一つはcsd遺伝子である可能性が高い。本年度はcsd遺伝子の機能解析に加え、他方の初期遺伝子の解明を進める。実験ではウメマツアリの胞胚葉形成時期である産卵後約24時間以内に発現した遺伝子をRNA-seqで網羅的に探索し、発現上昇が確認されたものを性決定遺伝子の候補とし、機能解析実験を行う。さらに、性決定カスケードの中間に位置するfemのスプライシングを調節する機構を明らかにする。ミツバチでは、csd遺伝子がコードするCSDタンパク質はRNA結合ドメインを持たないため単独ではfemのpre-mRNAに作用することはできず、RNA結合ドメインを持つ協調因子Tra2と結合して初めてfemのスプライシングの調節が可能となることが分かっている。本年度は、ウメマツアリのTra2と相互作用する分子をYeast Two-Hybrid法を用いて網羅的に解析することで、femのスプライシングの調節因子の候補を探索する。Tra2との結合が予想された因子については培養細胞を用いたTwo-hybridルシフェラーゼアッセイおよび共免疫沈降によって、分子間相互作用を直接確認する。
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