これまで使用した授乳期PFOS曝露モデルを用い、老年期(生後1年齢)での脳機能(主に認知・記憶を司る海馬機能)への影響を検討した。行動実験では、物体位置記憶において、PFOS群では長期記憶に減弱が見られた。また、不安様行動の増加や、社会性行動の減少も認められた。PFOS曝露群の海馬では、アルツハイマー病で増加するとされるTauタンパクが有意に増加していた。また、蛍光免疫染色では、PFOS曝露群の背側海馬にてTauタンパクの発現の増加傾向がみられたが、腹側海馬ではその傾向は見られなかった。本研究は、2024年3月Journal of Physiological Sciencesに発表するに至った。また、第101回日本生理学会大会にて口頭発表演題に採択されている。 また、生後1-7日、生後8-14日、とより詳細に曝露時期を分割し生後21日で行動実験を行った。生後8-14日にPFOSに曝露された群に比べ、生後1-7日にPFOSに曝露された群では、記憶学習の減弱がより顕著に現れた。この曝露時期の差が、海馬の遺伝子発現プロファイルにも反映されていないかを調べるため、生後21日での海馬においてRNAシークエンスを行った。しかし、行動変容に関係すると思われる遺伝子群に変化は見られなかった。同様にトランスクリプトーム解析を行った先行研究と比較すると、生後1日もしくは7日で多数の遺伝子の発現変化を確認しており、生後21日というタイミングは海馬の発達がほぼ完了しつつある時点であり、ダイナミックな遺伝子の発現変化は望めない時期であったことが本結果の要因であると考察する。今後は、より顕著に行動表現型に影響が見られた生後1-7日の期間において、遺伝子発現プロファイルの解析を行う必要があると考える。本研究は、現在Journal of Toxicological Sciencesに論文投稿中である。
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