研究実績の概要 |
フーリエ制限定理など調和解析的手法によって非線形分散型方程式の初期値問題の研究をおこなった. 本年度は主に次の3つの方程式の初期値問題について考えた. (1). プラズマ上のラングミュア波を記述する方程式である退化ザハロフ方程式系の初期値問題について研究をおこなった. 一般的に知られているザハロフ方程式系と大きく異なる点として, 空間の一方向が退化しておりその方向に対しては分散性が得られない. 特に一般的なザハロフ方程式系では生じない評価が難しい非線形共鳴相互作用が存在することが大きな障害となり, 適切性を示すために, 既存の研究結果では初期値に大きい正則性を仮定する必要があった. 本研究では, シュレディンガーマップの研究で開発された手法を用いることで初期値に必要な正則性の緩和に成功した. (2). 二次の非線形項 |u|^2 を持つ非線形シュレディンガー方程式の空間二次元の場合の適切性について研究をおこなった. この問題の, 自乗可積分関数空間を基礎としたソボレフ空間の枠組みでの適切性に必要な正則性の条件を完全に解明されている. 本研究によって, 初期値に角度に関する正則性を仮定することで必要な正則性の条件を緩和することに成功した. この結果によって適切性に必要な角度の正則性と空間の正則性の関係を完全に解明した. (3). ハートリー型の非線形項を持つ非線形分散型方程式の時間大域的適切性について考えた. この研究によって (2) と同じく初期値に角度正則性を仮定することで時間大域的適切性に必要な非線形項と初期値の条件を与えた. これは逐次近似法の枠組みで最良の条件である. 証明の鍵となったのが, 非線形相互作用の精密な解析とその制御に双線形評価式を用いたことである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は主に方程式の適切性の研究をおこなった. 退化ザハロフ方程式系の研究では, 一般のザハロフ方程式系では現れない非線形共鳴相互作用によってフーリエ制限ノルム法が有効にはたらかないことを確かめ, 別の手法を用い既存の結果の改良に成功した. 非線形シュレディンガー方程式の研究では適切性だけではなく, 超曲面上の合成積評価の研究を進展させることができた. ハートリー型非線形分散型方程式に関する研究は, 得た結果を基礎とし, さらなる研究の余地があり, 意義深い. 一方で, 残念ながら, 本研究課題の目的であるフーリエ制限定理の研究や, その方程式への応用法の開発に関しては新しい研究結果が得られなかった. しかし本年度の方程式の研究を通していくつかの着想を得ることができ, 来年度以降のフーリエ制限定理の研究に繋がると考えている. 以上より, 本研究はおおむね順調に進行していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い, フーリエ制限定理の研究とその方程式の研究への適用法を考えたい. 特に, 本研究の大きな目標である多重線形制限定理についての研究を推し進める. また, 本年度の研究成果を発展させ, 双線形制限定理を用いた三次の非線形項をもつ非線形分散型方程式の研究をおこなう. 特に, 零構造という非線形構造を満たす三次の非線形項をもつ非線形分散型方程式に関する適切性の研究に取り組む.
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