研究実績の概要 |
本年度は、前年度に構築した局在有効モデル構築・定量解析手法の現実物質への適用と、フラーレン化合物のt-Jモデル構築を行った。前者については、現実のモット絶縁体であるκ-(BEDT-TTF)2Cu[N(CN)2]X(X=Cl,Br)に適用し、特に磁気構造に注目して解析を行った。この物質は層状であるが、層間の局在スピン間相互作用が磁気構造に影響を与え、X=ClとX=Brとで異なる磁気構造となることが先行研究の実験で指摘されている。そこで、局在有効モデルの構築・解析枠組みを応用することで、両物質における異なる磁気構造の微視的起源解明を目的に解析を行った。解析の結果、1つの可能性として、層間のアニオンを媒介する高次の電子遷移過程によって両物質の磁気構造の違いが生じることがわかった。 後者については、フラーレン化合物ではフント結合が反強磁性的であることに起因して、同一軌道内電子の二重占有(ダブロン)が活性化し、1体軌道モーメントがゼロであるのに対してダブロンの軌道モーメントが有限となることがわかっている。最近ではフラーレン超伝導体に対する電子およびホールドープ効果も実験的に解析がなされている。強相関電子系におけるドープ効果は、銅酸化物に対してt-Jモデルを用いて解析が行われてきたことに着想を得て、フラーレン化合物に対するダブロン軌道自由度をもつt-Jモデルの構築を行った。モデル構築にあたり、前年度で確立した有効モデル構築手法を、電子数の異なるモデル空間を扱うことができるように拡張した。現時点ではモデルの構築までが完了しており、モデルの解析は今後の課題である。
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