研究期間全体を通じ、(1)可視光活性型ホスフィンリガンドのデザイン・合成・評価、および(2)可視光活性型ホスフィンリガンドを用いた遷移金属触媒可視光反応の開発を行った。 時間依存密度汎関数法に基づく理論解析により、可視光吸収が可能な新規ホスフィンリガンド(以下、Ligand A)を分子デザインし、市販の化合物から2工程で合成した。合成したLigand Aを種々解析したところ、Ligand Aは可視光吸収性、化学反応に適度な酸化還元能、パラジウムへの配位能を有していた。そこでパラジウム触媒とLigand Aを用いた可視光反応を検討したところ、Ligand Aは異なる電子状態のパラジウム、すなわち2価および0価のパラジウムを活性化し、ラジカル反応に活性な1価パラジウムを発生させることが予測された。実際にアミンα位のC-Hアリル化反応、不活性なアルキルブロミドのHeck反応、アリールクロリドやアリールブロミドのビアリール化反応および還元的水素化反応といった様々なラジカル反応の開発に成功した。また消光実験から、Ligand Aはリン原子を介したパラジウムへの配位が効率的な電子移動に影響を与えていることが示唆された。以上の結果を踏まえ、最終年度にはLigand Aとは異なるタイプのLigand Bを分子デザインした。さらに、Ligand Bを実際に化学合成し、分光学的性質を解析した。合成したLigand Bをパラジウム以外の種々の金属触媒に対し適応したところ、特定の金属触媒とともに用いた時に反応が効率よく進行することを見出した。
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