研究課題/領域番号 |
21J20337
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
秋山 吾篤 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 液晶 / 強誘電体 / 電場応答 / 電荷移動錯体 / 自己集合 / 形態制御 / キラリティー / 分極 |
研究実績の概要 |
【1】分岐アルキル側鎖を計4本有するウレア分子: 炭素数10のキラル側鎖を導入した分子は,融点近傍(60-65 ℃)の温度で強誘電性結晶を示した。また,炭素数12, 14, および16のアキラルな分岐側鎖を導入した分子は,-20から160 ℃程度までカラムナー液晶を呈し,液晶を発現する温度全域で分極反転を示した。炭素数12の側鎖を導入した分子のみ,50 ℃以下で強誘電性カラムナー液晶(FCLC)が確認された。30 ℃においては最低でも18時間という長時間の分極維持を示した。赤外分光法や円二色測定より,適度に嵩高い側鎖の導入によりフレキシブルな集合状態の形成と分極反転温度の劇的な低温化をもたらしたことが明らかとなった。脱分極の活性化エネルギーを計算すると,強誘電相では200 kJ/mol,非強誘電相では100 kJ/mol未満の値が得られた。すなわち,側鎖の構造が僅かに変化するだけで分極維持性能が劇的に変化することが判明し,前例のない室温FCLCを達成した。 【2】π電子供与および受容型分子の電荷移動(CT)錯体: 初めに,側鎖を2本有する供与型分子(naphthalene)と受容型分子[naphthalene diimide (NDI)]分子の混合物を評価した。調製した全ての混合物は,片方の分子の溶融によりCT錯体を形成し,導入側鎖の炭素数の制御によりCT錯体の発現温度を制御できた。これら結晶性のCT錯体は,外部電場に応答する挙動が観測された。次に,高い電場応答性を付与するため,アミド基を有するpyromellitic diimide (PMDI), NDI, およびperylene diimide (PDI)を基本骨格とする分子群を合成した。これらは,計4つまたは6つの分岐アルキル側鎖を有し,導入する側鎖によって,カラムナー液晶やキュービック液晶を示すことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【1】ジフェニルウレア分子について,室温FCLCの発現に成功し,国内・国際学会等で発表した。導入する側鎖を直鎖形状から分岐形状に変えるシンプルな手法で,発現するカラムナー液晶の低温化を達成した。また,側鎖の本数と炭素数の変化によって,集合状態や発現温度を制御できることを見出した。適度に嵩高い炭素数12以上の分岐側鎖を導入することによって,室温で分極反転可能なまでの水素結合強度を実現できた。また,カラムナー液晶状態における分子間力やダイナミクスに焦点を当てて解析した。結果,キラルな側鎖を導入した分子は螺旋集合状態を構築し,分散力によって熱力学的に安定かつ分極反転に高温を要する分極状態を形成した。一方で,アキラルな分岐側鎖を導入した分子は,螺旋集合状態の形成が確認されず,準安定な分極状態を形成した。しかしながら,既報の論文にはない長時間の分極維持を示す室温FCLCを実証できた。また,これら分岐側鎖を導入したウレア分子の分極緩和挙動から,「ガラス化」に類似する現象が確認された。以上より,当初の狙い通り,分岐側鎖導入と室温FCLC発現の関係をおおむね明らかにすることができた。 上記のウレア分子は,分子間力と運動性のバランスをとっているため,電場応答能力と分極維持は両立できない機構であることが推測された。すなわち,室温FCLCは達成できたものの,応答速度が数十ミリHzで,自発分極値は数十nC/cm2程度であった。そこで着目したのが【2】CT錯体である。現状,CT錯体においてFCLCは確認されていないが,電場への応答が示唆された。また,アミド基の導入および分岐側鎖の伸長によって,電子受容型分子単体で,室温カラムナー液晶およびキュービック液晶の発現を確認した。 以上より,本研究において主軸としている分子設計と室温FCLCの実現は,概ね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
【1】で得られた室温FCLCとダイナミクス解析により示唆された分子の運動性について詳細に調査し,論文化する。具体的には,13C固体核磁気共鳴測定により,分子の結晶性や緩和時間等を定量化していきたい。また,導電性基板上に室温FCLCを発現する分子の薄膜を作製し,ナノサイズ電極による電圧印加およびFCLCの膜厚依存性を調査することで,超高密度記録素子としての材料利用を検討する。結晶性の強誘電性ウレア分子について,(R)-体およびラセミ体側鎖を導入し,キラリティーの効果を検証し,論文化する。従来の結晶性の強誘電性高分子や柔粘性結晶と比較して,10分の1以下の値である数V/μmの抗電場で分極反転可能な強誘電体であることが判明しているため,原因についても考察していく。これらの分子群は国際学会で発表予定である(予稿受理済)。 【2】で得られた結晶性CT錯体について,吸収スペクトルを薄膜状態で測定し,CT錯体の形成をスペクトルにより明らかにする。反転電流測定やSHG測定により,電場応答性および強誘電性を評価する。また,アミド基を有する受容型分子について,さらに導入側鎖の炭素数を増加させた受容型分子の合成と発現した液晶相について,小角X線散乱測定等を用いて体系的な調査を遂行する。分子集合状態の形態は,構成する分子の形状によって変化することが知られている。例えば,棒形状の分子は層状の集合状態,円盤または扇形状の分子は柱状の集合状態をとる。すなわち,導入する側鎖の大きさと数を変化させることで,分子の形状を変化させ,発現する集合状態を制御することができると考えられる。このような受容型分子集合体の形態制御は,有機エレクトロニクス分野における物性の制御に大きな寄与をもたらすと予想される。また,同様にアミド基を有する供与性分子を合成し,CT錯体の作製と物性評価を行っていく。
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備考 |
参加した学会の会議報告 (査読 無, オープンアクセス) Azumi Akiyama, Report on the 19th optics of liquid crystals conference, Liq. Cryst. Today, 2021, 30, 46-48. ( doi.org/10.1080/1358314X.2021.2036432 )
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