研究課題/領域番号 |
21J20604
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
廉澤 誠大 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 励起子絶縁体 / 密度行列繰り込み群法 / 2次元 / 量子スピン系 |
研究実績の概要 |
本年度の主な研究実績は以下の2つである。 1. 励起子絶縁体の候補物質であるTa2NiSe5の拡張Hubbard型有効3本鎖模型に対し、密度行列繰り込み群法(DMRG)を用いた解析を行うため、スパイラル境界条件を用いたDMRGの2次元格子系への拡張に関する研究を行った。具体的には、スパイラル境界条件を用いることで2次元格子系が周期的な1次元格子に厳密にマップされることを示し、2次元Hubbard模型の基底状態エネルギーや2次元XXZ模型の自発磁化をDMRGを用いて計算した。結果を厳密解や先行研究と比較することで、このスパイラル境界条件を用いた方法で2次元格子系の物理量が精度良く計算できることと、従来の境界条件を用いた方法と異なり、1段階のサイズスケーリングのみで熱力学極限への外挿が可能なことを明らかにした。 2. SrCuO2やSr2CuO3の有効模型として知られる1次元S = 1/2 Heisenberg模型について、XXZ異方性を持つスピンSの磁性不純物をドープした場合の効果を詳細に調べる研究を行った。まず、DMRGを用いて基底状態の反強磁性相関関数を計算することにより、(1)S = 0, 1の不純物は短距離の反強磁性相関のみを増大させ、(2)S = 1/2, S > 1の不純物は長距離の反強磁性秩序を安定化させることを示した。NMRスペクトルの計算も行うことで、SrCu0.99Co0.01O2のCoイオンのスピン状態がS = 3/2であることも明らかにした。さらに(2)の場合に、XXZ異方性を持つ不純物によって磁化曲線にプラトーのような構造が現れることや、有限温度クラスター平均場理論(CMFT)による比熱と磁化率の計算結果から、反強磁性相と常磁性相の転移温度の上昇についても明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Ta2NiSe5の有効3本鎖模型に対しDMRGを適用するため、まずスパイラル境界条件によるDMRGの2次元格子系への拡張に関する研究を行った。このスパイラル境界条件を用いた方法により、2次元格子系の熱力学極限での物理量をDMRGを用いて十分な精度で計算できることを確かめた。この研究成果について、現在学術論文の執筆を行っている。翌年度以降はこの研究結果を有効3本鎖模型に対して応用し、有限温度や非平衡状態への拡張を行う予定である。 また、上記の研究と平行して、1次元S = 1/2 Heisenberg模型に対するXXZ異方性を持つスピンS不純物の効果に関する研究を行った。この研究では、DMRGを用いて基底状態での反強磁性相関に対する磁性不純物の効果を詳細に調べ、不純物スピンの大きさについて分類を行った。NMRスペクトルについても計算を行い、SrCu0.99Co0.01O2のCoイオンのスピン状態がS = 3/2であることを示した。また、不純物による反強磁性相と常磁性相の転移温度の上昇についても明らかにした。この研究成果については、査読付き論文として出版済みである。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画として、まずDMRGを用いてTa2NiSe5の有効3本鎖模型の熱力学極限での基底状態相図の導出を行う。得られた結果を通常の平均場近似の結果と比較することで、量子効果や電子・格子相互作用が励起子相転移に与える影響を明らかにする。 さらに有限温度DMRGを用いて、有限温度相図の導出とBCS-BEC crossoverでの比熱の不連続性の再現を行う。光学伝導度や状態密度の温度依存性の計算も行い、実験結果との比較を行うことでpreformed exciton状態における物理応答を明らかにする。 非平衡状態については、時間依存DMRGを用いて各種動的相関関数を計算することで、Ta2NiSe5の時間分解ARPES実験等との比較を行う。また、電子と格子の応答時間スケールの差を利用し、励起子機構とフォノン機構を分離することで、Ta2NiSe5の相転移の起源を明らかにする。さらに、光誘起による励起子相から超伝導相への相転移の可能性についても調べる。 以上の研究成果を適宜学術論文にまとめ、国内外の学会で発表する。
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