研究実績の概要 |
最終年度は、RNAiによるノックダウン実験を行ない、チリメンカワニナにおける概潮汐リズムを制御する遺伝子を探索することを目的とした。候補遺伝子は、トランスクリプトーム解析によって約12時間周期の発現リズムがあることが明らかになった遺伝子の中から選定した。一方で、一部の概日時計遺伝子が概潮汐リズムに関与しているという報告がなされたため(Kwiatkowski et al., 2023, Lin et al., 2023)概日時計遺伝子も重要な候補として実験を進めた。 概日時計遺伝子は季節によって発現パターンが変化することが知られているが、潮汐環境のもとでどのような季節性を示すのかについてはほとんど知見がない。そこで、RNAiの準備と並行して、感潮域集団と非感潮域集団における概日時計遺伝子の季節ごとの発現パターンを解析した。その結果、両集団において時計遺伝子の発現量は冬に低下することが示された。また、period遺伝子はどちらの集団でも冬に概日リズムが弱くなり、cycle遺伝子は感潮域集団において概日リズムが不明瞭な傾向にあった。以上のように、それぞれの集団における概日時計遺伝子の季節ごとの発現パターンをつかむことができた。 このデータを踏まえ、とくに集団間で発現リズムに大きな差がみられたcycle遺伝子に着目し、冬以外の季節に実験を行なうことを計画した。dsRNAiの合成が難航したものの、現在は定量PCRによってインジェクションによる発現抑制を検証する段階まで至った。しかし、行動観察までは行えなかったため、今後の実験として計画している。 期間全体の研究成果により、チリメンカワニナの感潮域適応には概潮汐リズムとその可塑性が重要な役割を果たしていることが示唆された。その遺伝基盤については、RNAi実験も含め、今後の研究によって明らかにできると期待している。
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