研究課題/領域番号 |
21J21037
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
相澤 匠 千葉大学, 融合理工学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 自己集合 / 発光 / 水素結合 / 超分子ポリマー / ナノチューブ / ナノシート / DNA / OLED |
研究実績の概要 |
これまで我々は、直線状に拡張されたπ共役バルビツール酸分子の自己集合挙動の調査を行ってきた。それらは低極性溶媒(メチルシクロヘキサン)中において相補的水素結合によって環状六量体(ロゼット)を形成し、このロゼットがπ-π相互作用で湾曲性を維持しつつ自発的に積層することで様々なかたちを持つ超分子ポリマーを形成する。一方で最近、ある限定的な条件下でのみ、分子が1次元状に連結した水素結合パターン(テープ)に由来する結晶性シート状集合体を与えることも見出している。 昨年度は、結晶性シート状集合体を選択的に得るいくつかの分子設計を検討した。かさ高いπ共役系を用いることでロゼット形成を経由した自己集合経路が制限され、テープ形成を経由した発光性の超分子ナノシートを形成することが明らかになった。この成果は、欧州王立化学会の旗艦雑誌であるChemical Science誌に掲載済みである。これらの分子設計を適切に調整することで発光量子収率80%を超える強発光性のナノシートも作れることが分かっており、さらにそれらの固体薄膜はOLEDデバイスへの応用に有望であることがすでに分かっている。この成果も現在論文執筆中(計画①)である。 またバルビツール酸の1つの酸素原子を硫黄原子に置換した2-チオバルビツール酸を水素結合部位に用いることでπ共役系のかさ高さにかかわらず選択的にテープ状水素結合パターンをもつ集合体を得られることが分かった。チオバルビツール酸集合体は、チオカルボニル基の励起状態電荷分離により無発光性であり、先述の強発光性ナノシートとは大きく異なる性質をもつ。この成果もまた、現在論文執筆中である。(計画②) さらに、最近では強発光性のナノチューブの創出にも成功しており、今後は上記の多様な構造と機能を有する自己集合体を駆使し、さらなる未踏のナノ構造材料へと展開する準備ができている。(計画③)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
分子の合理的なデザインによるナノ構造の選択的な構築や、それらの機能探究の面において、本研究は当初の想定よりも大きく進展している。一方で、合成分子へのヌクレオシド鎖の化学修飾法を確立し、自己集合に適切な分子設計を探究する計画は、現在国内の人工DNA合成や修飾を専門にする研究者との共同研究が始動している。いずれの結果においても当初の計画以上の結果が出ており、進展状況は(1:当初の計画より進展している)に相当すると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
・計画①について:OLEDへの応用可能な強発光ナノシート開発の成果は、現在論文執筆中であり、本年度中に査読付き論文誌への投稿を予定している。 ・計画②について:チオバルビツール酸の自己集合体の成果も、現在論文執筆中であり、本年度中に査読付き論文誌への投稿を予定している。 ・計画③について:強発光性のナノチューブは、その形態・機能の両面において学術的に極めて重要な結果を示しており既に国内外の複数の研究チームとの共同研究によって詳細な構造の解析と機能の解明が行われている。今後イギリスの共同研究者の協力のもと、中性子散乱を用いてより詳細な構造解析および会合メカニズムの同定を行う。また、ナノチューブ内での励起子の挙動を大阪大・九州大との共同研究により解明する。ナノチューブ内部は特異な環境にあることが予想され、小構造体をDNAの選択的結合を用いて接合するだけでなく、その内部で空間的に運動を制限しつつ内包する重要な基盤構造になりうる。 また、本年度はこれまでに探究した自己集合分子へのヌクレオチド鎖の適切な修飾方法や、それらの種類等を選定し、構築したナノ構造同士の接合とそれらの物性のアンサンブルの観察に挑む。既に、各種ナノ構造の分光的調査を構造解析は進展しており、国内の人工DNA合成や修飾を専門にする研究者との共同研究も始動している。 学会発表に関しては国内・国際学会で最低でも1件ずつ発表する予定である。学会発表を行うことで研究遂行能力だけでなくプレゼンテーション能力の向上に努める。
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