研究課題
これまで我々は、直線状に拡張されたπ共役バルビツール酸分子の自己集合挙動の調査を行ってきた。それらは低極性溶媒(メチルシクロヘキサン)中において相補的水素結合によって環状六量体(ロゼット)を形成し、このロゼットがπ-π相互作用によって自発的に積層する際に湾曲性を維持しつつ集合することで様々なかたちを持つ超分子ポリマーを形成する。一方で最近、ある限定的な条件下でのみ、分子が1次元状に連結した水素結合パターン(テープ)に由来する結晶性シート状集合体を与えることも見出している。これまでに私は結晶性シート状集合体を選択的に得るいくつかの分子設計を検討した。かさ高いπ共役系を用いることでロゼット形成を経由した自己集合経路が制限され、テープ形成を経由した発光性の超分子ナノシートを形成することが明らかになった。この成果は、欧州王立化学会の旗艦雑誌であるChemical Science誌に掲載済みである。またバルビツール酸の1つの酸素原子を硫黄原子に置換した2-チオバルビツール酸を水素結合部位に用いることでπ共役系のかさ高さにかかわらず選択的にテープ状水素結合パターンをもつ集合体を得られることが分かった。チオバルビツール酸集合体は、チオカルボニル基の励起状態電荷分離により無発光性であり、先述の強発光性ナノシートとは大きく異なる性質をもつ。この成果は欧州王立化学会の速報誌であるChemical Communications誌に掲載済みである。さらに最近では強発光性のナノチューブの創出にも成功している。これまでの分子設計によるナノ構造制御の知見を生かし、昨年度はシンプルな分子構造の変化によって、ナノ繊維、ナノ螺旋、ナノチューブなどの構造を調整できる分子設計を確立した。これらの成果は現在論文執筆中である。
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J. Am. Chem. Soc.
巻: 145 ページ: 22563-22576
10.1021/jacs.3c07556