本研究では,海洋の表層に広く生息する植物プランクトンの化石である石灰質ナノ化石を用いて,海洋の重要なパラメータである水温,塩分,栄養塩を過去の地層から定量的に復元する手法の構築を目指して研究を行っている.令和4年度は,そのうち海洋表層の水温に焦点を当てて研究を遂行した.まず,日本列島周辺で得られた石灰質ナノプランクトンの現生群集データに基づき,化石としても産出する石灰質ナノ化石の相対産出頻度と表層海水温の関係性を明らかにし,現生群集と地層から得られた化石群集との類似度を比較することで表層海水温を算出する現生アナログ法の確立した.また,表層堆積物の現生群集に対して本手法を適用することで,本研究で確立された石灰質ナノ化石群集に基づく現生アナログ法の妥当性を評価した.これらの手法を化石群集に応用するため,房総半島に分布する上総層群黄和田層の石灰質ナノ化石を検討することで,過去の表層海水温を算出した.復元された海水温は,概ね氷期ー間氷期サイクルに類似した変化を示しており,浮遊性有孔虫化石の酸素同位体比や群集組成によって復元された過去の表層水塊の変動と整合的であった.さらに,得られた表層海水温の変化と石灰質ナノ化石群集の変化を組み合わせることにより,数千年スケールの高い時間分解能で,前期更新世における黒潮と親潮の変化を議論した.以上の成果については,日本地球惑星科学連合大会と日本地質学会で発表を行い,現在論文を執筆中である.
|