研究課題/領域番号 |
20J40156
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
特別研究員 |
棟朝 亜理紗 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2020-04-24 – 2024-03-31
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キーワード | 社会的緩衝作用 / 前嗅覚後部複合体 / 扁桃体 / オピオイド |
研究実績の概要 |
近年、大災害やテロなどにより不安障害や恐怖症、心的外傷後ストレス(PTSD)が引き起こされ、その結果引きこもり状態になってしまうことが社会問題として取り上げられている。この治療法として、対象となる刺激を繰り返し想像させたり、実際に暴露させたりすることで恐怖記憶の消去学習を成立させるエクスポージャー法が用いられている。しかし、この治療法には患者が強いストレスを感じたり、治療効率が悪かったりなど問題点があり、ストレスフリーな新しい治療法の開発が必要である。そこで、動物がストレス環境下に暴露された際に同種他個体が存在するとストレスが軽減される社会的緩衝作用に着目した。社会的緩衝作用の中に見知らぬ個体間での社会的緩衝作用があり、これは動物の社会性を理解するうえでより重要な生物学的意義を持つ現象であると考える。本研究では、この見知らぬ個体間での社会的緩衝作用のメカニズムの解明を目的としている。 本研究では社会的緩衝作用のモデル動物を用いて、前嗅覚後部複合体(AOP)が扁桃体を抑制する詳細な神経メカニズムを明らかにし、社会的緩衝作用のメカニズムを解明する。そのために、扁桃体に投射するAOPに発現するニューロン(AOPニューロン)のパターンの同定および解剖学的情報を収集する。 今年度は、AOPニューロンの投射先の解析準備を進めた。AOPニューロンがどこの脳領域に投射しているかアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて調べるためのAAV投与条件を決定した。さらに、社会的緩衝作用に関わる神経伝達物質を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究で、前嗅覚後部複合体(AOP)が後腹側内側扁桃体(MePV)と扁桃体基底外側複合体(BLA)へ投射し社会的緩衝作用に関与していることを示唆する結果が得られている。よりAOPに発現する神経細胞(AOPニューロン)の理解を深めるため、昨年度に引き続きAOPニューロンがどこの脳領域に投射しているかアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて調べる準備を進めた。AAV投与の条件検討を行った。 さらに、社会的緩衝作用に関わる神経伝達物質を調べた。親和性行動に関わるとされているドーパミン、オキシトシン、バソプレシン、オピオイドに着目をして研究を進めた。それぞれの拮抗薬であるナロキソン(オピオイド受容体拮抗薬)、ハロペリドール(ドーパミンD2受容体拮抗薬)、アトシバン(オキシトシン受容体拮抗薬)、SR49059(バソプレシンV1A受容体拮抗薬)をラットに腹腔内投与し、社会的緩衝作用が阻害されるかを確認した。その結果、ナロキソンを投与した時のみ社会的緩衝作用が阻害された。このことから、社会的緩衝作用にはオピオイドが関わっている可能性が明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
AOPニューロンの投射先の解析を行うために、以下の実験を行う予定である。今年度確定できたAAV投与条件を利用して、AOP特異的に順行性神経トレーサーを投与し、蛍光シグナルがどの脳領域に発現しているかを観察することでAOPニューロンの投射先を明らかにする予定である。さらに、AOPニューロンのパターン(興奮性または抑制性)を調べる。順行性神経トレーサーを投与したラットの脳切片に対して、vGLUTまたはGABAに対するin situハイブリダイゼーションを行い、AOPニューロンがグルタミン酸作動性なのか、GABA作動性なのかを明らかにする予定である。 オピオイドが社会的緩衝作用に関わる神経伝達物質であることをより確かなものにするため、以下の実験を行う。本年度、ナロキソン投与により社会的緩衝作用が阻害されることを明らかにした。ナロキソン投与により阻害された条件づけ恐怖反応の増加が社会的緩衝の阻害によるものかを確認するため、ナロキソンまたは生理食塩水を腹腔内投与したラットを用いてオープンフィールド試験を行い、活動量や不安行動を2群間で比較する。 さらに、社会的緩衝時にオピオイドが作用する脳領域を明らかにするため、ナロキソンを投与し条件づけ恐怖反応の増加が認められたラットの脳切片に対して神経活動マーカー(Fos)に対する免疫組織化学染色を行う。生理食塩水投与群とFos発現量が異なる脳領域を調べる予定である。
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