研究課題/領域番号 |
21J00021
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
久保 進太郎 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ダイニン / 分子モーター / キネシン / 分子動力学計算 / 一分子計測 |
研究実績の概要 |
キネシンと同様に細胞内輸送を担うタンパク質であるダイニンの微小管上での振る舞いについて分子動力学計算を用いて検証した。細胞質ダイニンは微小管のマイナス端方向に歩行運動を行うが、その際、linkerのpower-stroke運動の方向が進行方向の決定において重要な役割を有することは既に知られている。申請者はそれに加え、ダイニンが微小管に強結合状態の際、進行方向には解離しやすいが、逆方向には解離しにくい”解離の異方性”もまた運動の一方向性に寄与しているのではないかと考えた。そこで、分子動力学計算を用いて、プラス端方向に解離しにくい原因となりうる残基を三つ同定した。この3種の残基について、共同研究者に一分子計測を依頼し、3つの中の1つが確かに解離の異方性を消失させることを確認した。その上、解離の異方性を消失させたダイニン分子はpower-strokeの運動方向に明示的な変更は加えていないにも関わらず一方向運動が消失したことも確認された。本研究成果はダイニンの一方向運動の新たな因子を同定するとともに、計算によるスクリーニングの有効性を確認する上で重要な意味を有する。なぜなら、申請研究において、キリンのキネシンの高速運動メカニズムを解明するだけでなく、より高速な運動を実現する為の新たな変異をデザインすることも予定している。これは、最も単純な方法としては、キリンの運動高速化に寄与する部位が例えば静電相互作用を用いた引力効果だった場合、ジスルフィド結合を誘引させて、より強固な結合を導入する。このようなデザインは理論計算でその効果を検証したのち、実際に所属先研究室の実験研究者との共同研究を念頭においている。その為、申請者が主に用いる計算ソフトウェアが実際の一分子計測系での観察結果と1残基レベルで整合性が取れていることの確認が出来たことの意義は大きい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナの影響で昨年度はカナダから日本国内に帰国する事が出来ず、所属研究室との綿密な研究相談が出来なかった。さらに、本研究課題の第一歩目にあたるキリンのキネシンの構造獲得が完了しなかった点も大きい。しかし、キネシンに先んじて、申請者が取り扱いに慣れているダイニンを用いた計算による運動制御の解明、及び、実験との共同性の確認が取れた点が大きな収穫である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、キリンのキネシン構造が獲得され次第、キリンのキネシン構造を用いた分子動力学計算を行う。計算では加水分解反応を中心にシミュレーションを行い、アミノ酸粒度での反応・挙動を解析する。キリンのキネシン構造が獲得されるまでは、まずマウスのキネシン構造を用いた比較計算を行う。さらに、計算資源に余力があれば、マウスのキネシン構造に、キリン型の配列となるよう変異を導入し、キリン型配列のマウス構造を用いた分子動力学計算を行うことで、計算機上でどの程度キリンとマウスの挙動の差が確認できるのかを検証する。
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