本研究はまず1997年以後の香港政治について、2019年の大規模デモに至るまでの経緯を把握することから始めた。政治学の先行研究の調査から、2013年に習近平が中国共産党の国家主席に就任した後、急速に香港と中国の関係が悪化していることがわかった。ただし、香港市民のなかにも中国共産党を支持する層は一定数存在していることから、香港内部にも深刻な対立と断絶が生まれている。それと同時に、2010年代以降はスマートフォンが普及し、メディア環境にも大きな変化がもたらされた。このメディア環境が、2014年の雨傘運動や2019年の民主化デモに大きな影響を与えたことに鑑みれば、2010年代以降に焦点を定めるのがより的確であると判断した。 香港映画については、2003年にCEPAが締結されて以降、香港と中国の映画製作での連携が強まっている。香港映画、香港・中国合作映画、中国映画といった分類に明確な定義はないため、それぞれを区別することは困難だ。ただし、公的機関である香港電影發展局が2012年以降毎年発行している「香港電影業資料彙編」(以下、資料集)では、香港映画(港産片)などの定義付けをおこない、それに基づいて、香港でその年に公式に上映された長編映画を分類・整理している(現在、2019年まで公開済)。この資料集によると、香港映画は毎年50本前後で推移しており、2012年から2019年までの合計は422本、そのなかに中国との合作映画が240本含まれる。これまで138本の映画が調査済みであり、残りの作品も随時調査・分析をおこなっていく。
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