研究課題/領域番号 |
21J00376
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
門屋 俊祐 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 胃腸炎ウイルス / ロタウイルス / バイオインフォマティクス / 集団遺伝学 / 地理条件 |
研究実績の概要 |
胃腸炎ウイルスの多くは非常に高い進化速度を持つことが知られており、自然環境中に遍在する様々な選択圧に対して適応的に振る舞い、ヒト社会においてさえも種の繁栄を維持し続けている。世界中で胃腸炎ウイルスによる感染被害が未だに制御できていない原因をウイルス集団遺伝学的観点及び地理的な多様性から追求するため、本年度はバイオインフォマティクス解析を主軸とした研究を行った。 胃腸炎ウイルスの代表であるロタウイルスに着目し、次世代シーケンシングによって決定されたロタウイルス遺伝子配列を塩基配列データベースから取得することで、世界各国のロタウイルスの集団遺伝学的プロファイリングを行った。集団構造の決定因子が自然選択あるいは遺伝的浮動であるかどうかを検証するために、非同義及び同義塩基多様度を推定した。その結果、同義置換による多様度が高い傾向が示され、ロタウイルスの集団構造は選択によって決定される可能性が示唆された。選択が進化の主要因である場合、本研究で見られた非同義置換起こす変異は各環境への適応性をもたらし、集団内においてこれらの非同義変異の頻度は増加していくはずである。ところが、各非同義変異の頻度の時系列変化を確認したところ、欠損値が多いものの2000年以前から2010年以降に至るまで、各非同義変異は低頻度でほぼ一定で推移していることから、ロタウイルスの進化要因は正負の自然選択のみではないことが示唆された。次に、平衡選択の判別に広く使用される統計量Tajima’s Dを計算したところ、ロタウイルス集団中に含まれる非同義変異は選択的に中立に近いが、微小ながら有害であることが示唆された。以上の結果から、選択により極めて有害な変異が排除される一方で、有害ではあるが集団としての適応度に貢献可能な変異が一部残存することで集団内多様度を維持し、ロタウイルスの集団構造が決定されるという可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、集団遺伝学的観点及び地理条件の多様性という観点から胃腸炎ウイルスがヒト社会で蔓延し続けている原因を突き止め、適切な介入対策の提案を目的としている。本研究の1年度目においては、世界中のロタウイルス遺伝子配列をデータベースから取得・解析することで、ロタウイルスの集団構造は正あるいは負の自然選択に加え、集団内においてより複雑なダイナミクス(例えば、弱有害変異株が優占株の感染・複製を補助し、共感染を行う)のもと決定されるという、ロタウイルスの進化方式に関する重要な示唆が得られた。現時点で取得された遺伝子配列はアメリカあるいはアフリカに由来するものが大半ではあったものの、両地域に特異的な一塩基多型の同定にも成功しており、各地域の地理・気象条件に適応するための進化様式の解明につながることが期待される。その一方で、共通の変異も複数確認されており、航空網の発達に伴うウイルスの国際的な拡散に関する示唆も得られている。以上より、本研究は順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で解析した遺伝子配列はデータベース上で検索し、取得したものであるため、サンプル数が期待より少なく、配列が登録されていない年代が見られたり、アジアやヨーロッパに由来するサンプルもほとんど得られなかった。そこで、2年度目においては、論文検索データベースからロタウイルスの次世代シーケンス解析に関する論文ならびに配列情報を取得し、より網羅的かつ高精度な解析を行う。また、介入効果のロタウイルス集団構造に与える影響を検証するため、消毒処理が行われている下水処理水から回収された遺伝子配列の解析を行い、1年度目で得られた配列及び集団構造の変遷要因との比較を行う。さらに、ノロウイルスやエンテロウイルスなどの胃腸炎ウイルスについても同様の解析を行い、胃腸炎ウイルスが互いに類似あるいは全く異なる進化的戦略を有しているかどうかの検証も行う。
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