研究課題/領域番号 |
21J00645
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
千坂 知世 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | イラン政治 / 選挙権威主義 / 選挙不正 |
研究実績の概要 |
2022年の研究実績は、主に2点ある。第一に、イラン・イスラーム共和制における特有の選挙操作方法を解明するために、選挙法や選挙実施規則、選挙監督法などの一次資料を読み解いた。それによって、イスラームの宗教指導者の管轄する監督者評議会と選挙で選ばれる大統領管轄下の内務省が、どのように二元的に国会選挙を管理するのかを実証的に明らかにした。この成果は論文としてまとめ、2022年10月北米の中東学会誌Middle East Journalに投稿し、良好な査読結果を得た(現在R&R)。第二に、権威主義体制下における選挙操作の理論的研究である。具体的には、既存の権威主義研究や選挙研究において比較的手薄な「選挙後」の不正に着目し、独裁者が選挙後の紛争処理や結果公表の過程でいかにして選挙を操作し、権力の維持を図るのか、という問いに取り組んだ。本研究を進めるにあたり、権威主義研究/中東政治研究の世界的第一人者Lisa Blaydes教授を受け入れ教員として、2022年9月から米国スタンフォード大学にて在外研究に従事している。先行研究レビューに加え、スタンフォード大学図書館に所蔵されているペルシャ語文献も利用している。とりわけ、イラン元内務次官で2000年国会選挙の選挙実施委員会委員長を務めたMostafa Tajzadehの著書(内部資料)に収録されている約50枚の内務省と監督者評議会の間で交わされた書簡をペルシャ語から英語に翻訳し、傾向を整理した。その結果、選挙不正は投票所で発生すると言われている権威主義一般とは違い、イランでは投票所や選挙区レベルよりも、中央において野党の勝利が取り消しになる傾向が観察された。この事実の理論的示唆を盛り込んだ論文を現在執筆中であり、比較政治学の主要査読誌Comparative Politicsに投稿予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スタンフォード大学において、これまでイランや日本では入手できなかったイランの選挙実施に関するペルシャ語の一次資料を得たことで、当初の予定よりも実証研究が進んでいる。また、同大学に所属する比較政治学や中東研究の教員・ポスドクとの意見交換を通して、理論的示唆や論文のリサーチデザインについても多くのフィードバックを得てきた。さらに、スタンフォード大学では独自の研究会や学会が頻繁に開催されており、それらに参加することで他校の権威主義やイラン研究専門の研究者らとも意見交換し、自分が取り組んできた事実の解釈についての適切な意見も得てきた。このように最新の研究動向の中で自分の研究の位置付けを確認することで、論文の方向性についても多くの示唆を得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は権威主義国における選挙操作、特に選挙後の不正の方法を理論的に研究する予定である。本研究は、2000年以降に比較政治学で注目を浴びている「選挙不正の方法(menu of manipulation)」に貢献するものである。既存研究では、覇権政党(dominant party)や強権的な一人のリーダーが存在する国を対象として選挙不正が分析されてきたために、イランのように政党が脆弱で政治権力が分散している国家で、どのような選挙不正がとられているのか明らかにされていない。そこで、今後は、2022年度の研究で収集したイラン選挙不正に関するデータを全国207選挙区で整理し、傾向をまとめる。そして、それを一般的な権威主義と比べて、イランの何が他と異なるのか、それが選挙不正の方法にどのようなメカニズムで影響を及ぼすのか、そして、その結果どのように政治的帰結(選挙後の抗議デモ、ボイコット、現職再選率)につながるのか、という問いに取り組む予定である。 これまでイランの国会選挙管理制度の実証的研究(Middle East Journal、R&R)、イランを事例とする選挙権威主義国における選挙後の不正の理論的研究(Comparative Politics投稿予定)に加えて、スタンフォード大学フーバー研究所において革命前王制時代のイランの選挙不正の歴史的研究にも取り組んでいる(Iranian studies投稿予定)。今後は、これら3つの論文をまとめて、単著として成果を発表したいと考えている。
|