研究課題/領域番号 |
21J00721
|
配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
潘 晟 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 特別研究員(PD) (10907372)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | ミューオン稀崩壊 / 液体キセノン / SiPM / MPPC |
研究実績の概要 |
本研究はスイス・ポールシェラー研究所にて推進されているミューオンのフレーバー転換反応を探索する実験(MEG II experiment)である。該当課題においてはミューオンのフレーバー転換反応で放出されるガンマ線を検出する液体キセノン検出器の運用・較正および光検出器(MPPC)の検出効率回復処理を行った。 液体キセノン検出器は反応によって放出されるガンマ線のエネルギー・位置(方向)・タイミングを高精度で測定するための検出器であり、世界最高感度のミューオンフレーバー転換反応を探索するうえで安定に運転されることが必須である。また、先行研究より液体キセノン検出器に用いられている光検出器:MPPCの検出効率が、ミューオンビームの照射に伴って減少する問題が発覚している。 本研究では実際に実験が遂行されているスイス・ポールシェラー研究所に赴き、ビーム照射中の液体キセノン検出器の較正データの取得を行い、検出器の安定運用を実現した。また、ビームタイム終了後にアニーリングと呼ばれる加熱処理を行うことで減少したMPPCの検出効率の回復を試みた。具体的には温水ポンプを用いた低温加熱(45℃)を2ヶ月間行い、検出効率の回復量をモニターした。当初は2ヶ月間のアニーリング処理で十分な検出効率回復が期待されていたが、モニターの結果予想よりも回復速度が遅いことが判明したため、温水による回復処理からジュール熱を用いたより高い温度(70℃)での加熱処理を行う方針に転換し、そのための準備を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である令和3年度においては、液体キセノン検出器の安定運用の実現と光検出器の検出効率回復手法の確立が目標であった。 液体キセノン検出器の安定運用については、ミューオンビーム期間中に定期的にいくつかのキャリブレーションソースを用いた較正データを取得し、解析を行うことで検出器のエネルギースケールのモニターを行った。これらの較正結果は実験グループ全体に共有され、データ取得トリガーに対するフィードバックとして安定運用のための重要な役割を担った。また、キャリブレーションデータを用いて検出器内の反応位置に対するエネルギー応答を調査し、検出器の応答理解を試みた。 液体キセノン検出器の光検出器(MPPC)の検出効率回復についてはミューオンビームタイムが終了したタイミングで温水ポンプを用いたMPPCのアニーリング(加熱)処理を行った。事前のラボテストの結果から、温水による45℃のアニーリング処理を2ヶ月程度行うことで次年度のビームタイムに十分な検出効率の回復が期待されていたが、実際には予想の1/10程度の回復速度となっていることが判明した。そこで以降は温水によるアニーリングを中断し、ジュール熱を用いた高温(70℃)でのアニーリング処理に切り替える方針をとった。令和3年度においてはジュール熱を用いたアニーリング処理のための基盤作成などの準備を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
令和4年度のビームタイムが開始されるまでにジュール熱を用いたMPPCの検出効率の回復を行う。ジュール加熱によるアニーリング処理を行うと同時に、検出効率の回復度をモニターする手法を確立し、問題が発覚した際に迅速な対処を可能とする。最終的な検出効率の回復については液体キセノンを再導入した後にキャリブレーションソースを用いて評価する。 ミューオンビームタイムの開始後は定期的なキャリブレーションによって検出器のモニターおよび安定運用を目指す。 また、令和4年度のビームタイムから本格的な物理データの取得が開始されるが、これらの解析を行いミューオンのフレーバー転換反応の探索を行う。
|