研究課題
2021年度に実施した,0~2歳児とその保護者およそ90組を対象にした「親子遊び調査」について,追加データ収集および発話・行為アノテーション付与を行なった。2022年度中に,発話や行為の開始・終了のタイミングおよび発話の文字起こしが完了し,本調査の前提・土台となる研究について論文出版が完了した。併せて,理化学研究所言語発達研究チームの「理研日本語母子会話コーパス」についても類似のアノテーションを付与し,22組の親子について発話と行為の共起関係を探索的に分析できる状態となった。さらに,2022年度には,ターゲットになる単語が名詞か動詞かが不明確で曖昧な状況において,乳幼児がその単語の意味をどのように捉えるのかを調べるための「新奇語学習課題」を開発した。これは,「ある物品を使ってある特定の行為をする」短い映像とともに,新奇単語 (例:リガリガ)を提示するというものである。新奇語の学習後,例えば「同じ物品だが行為が異なる映像」と「物品も行為も異なる映像」を左右同時に並べて「見て!リガリガ!」のように教示した際,子どもが左右のどちらを注視するかを視線計測装置によって計測することで,子どもが単語をどのように理解しているかを調べる。刺激開発および予備調査を実施し,OSFでの事前登録も完了した。また,2022年9月~12月,英国Warwick大学に滞在し,親子遊び調査および共同研究計画について密に議論を重ねた。Warwick大学内外の英国研究者とも交流し,世界有数の赤ちゃん研究室を擁するLancaster大学や発達障害児の研究に注力するCardiff大学にも訪問し,研究交流および招待口述発表を実施した。2021年度に滞在したアイルランドTrinity College Dublinとの共同研究についても,成果を国際会議で発表した。
2: おおむね順調に進展している
2021年度に収集した「親子遊び調査」について,調査半年後の子どもの語彙発達を調べるために,質問紙による縦断データを収集した。その結果,約90%という高い割合で回答が得られた。音声・映像データについては,300以上ものファイルに対して,発話や行為の開始・終了のタイミングおよび発話の文字起こしが完了し,アノテーションのためのマニュアルのオープン化に向けた整備も進めている。発話のみならず行為に対してもアノテーションを付与するため時間を要するが,世界的にも貴重なデータセットであり,高い学術的価値が期待される。「理研日本語母子会話コーパス」についても,従来なされていた発話の音韻的側面に加えて,発話の意味的側面や行為との関連についてアノテーションを付与した。「新奇語学習課題」については,2022年度中に対面での本実験を開始し,オンライン実験で海外でもデータ収集を予定していたため,やや計画に遅れが生じている。しかし,刺激の準備および予備調査は完了しており,Pythonを使って視線計測と刺激提示を同時に操作できる環境も整備できた。OSFでの事前登録も完了しているため,少なくとも対面での本実験は2023年度に開始可能である。オンライン実験に関しては,Trinity College Dublin (アイルランド) との共同研究の成果を国際会議にて発表し,論文化を進めている。webcamを用いた乳児実験について,データの質を阻害する要因を探索したため,それらを極力統制するための短いインストラクションモジュールの開発を進めている。英国滞在では,元来予定していた共同研究の実施・計画立案に加えて,滞在先のWarwick大学の他の研究者や,英国内のLancaster大学,Cardiff大学の研究者ともネットワークを形成できた。以上を総合し,おおむね順調に進展していると評価した。
2023年度は,①「親子遊び調査」データのアノテーションの継続,②「新奇語学習課題」のデータ収集,③国際比較に向けた乳幼児オンライン実験の方法論に関する研究,④今後の研究に向けた研究計画の具体化および研究実施体制の整備を行う。研究代表者の所属機関に変更が生じたため,適宜計画を調整しながら進めていく。さらに,国内外の学術集会への参加・発表を精力的に実施していく。①の「親子遊び調査」については,遊びの中での発話が特定の物品やその用途に関連しているかどうかなど,より詳細なアノテーションの付与を進め,解析と論文化を実施していく。加えて,理化学研究所・言語発達研究チームの親子遊びコーパスについても,発話と行為のアノテーションが完了しているため,解析と論文化を行う。②の「新奇語学習課題」は,実験刺激・課題の開発およびOSFでの事前登録が完了しているため,準備が整い次第本実験を開始する。加えて,国際比較に向けて,対面実験のみならず,オンライン実験としても調査を実施する計画である。③については,2021年度に滞在したTrinity College Dublin (アイルランド) との共同研究をさらに進める。オンライン実験におけるデータの質を阻害する要因を探索する研究について,解析を完了し論文を投稿する。加えて。それらの要因を極力統制するための短いインストラクションモジュールを作成し,その効果検証を実施するとともに,webcamデータにおける選好注視法の自動アノテーション手法の比較研究を実施する。④について,Warwick大学との共同研究の実現に向けて,研究計画をさらに具体化し,研究計画の立案・研究費の申請を実施する。英国滞在中に形成したネットワークを土台として,カテゴリー化および語彙発達の解明に向けた次なる研究を計画する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 4件) 備考 (2件)
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