研究課題
本研究の目的は、観測データに基づいた数値シミュレーションから、超低周波(ULF)波動の励起メカニズムや粒子の変動を明らかにすることである。本年度は、計算機シミュレーションで設定するパラメータの参考とすべく、poloidal ULF波動が観測されたイベントについて、観測データの解析を行った。シミュレーションの結果を大きく左右するのは、ULF波動を励起するイオンの初期空間分布と初期速度分布である。また、現実の磁気圏内のイオンのドリフト軌道やプラズマ圧の分布は常に一定ではなく、時間変化する磁気圏対流電場によって刻一刻と変動する。実際に発生しているpoloidal ULF波動の観測例との比較や、現実に即したプラズマ環境下での励起メカニズムを解明するためには、観測データから粒子の空間・速度分布、ならびに磁気圏対流をコントロールしている電離圏ポテンシャルの特徴を抽出し、シミュレーションに組み込む必要がある。そこで、2013年10月29日にRBSP衛星がR ~ 5 Re付近で観測したpoloidal ULF波動の観測例に注目した。シミュレーションの外側領域における粒子の初期MLT分布・初期速度分布を得るために、静止軌道衛星(LANL衛星)のMPAイオン観測器の観測データの解析を行った。波動を励起するイオンが注入される夜側に位置していた衛星のデータから、イオンフラックスの経度(MLT)方向の広がりや、各MLTでの速度分布(κ分布でフィッティングを行ったときのindex parameter κ)を求めた。また、Poisson方程式を解いて電離圏ポテンシャルを求めるために、AMPERE(Iridium衛星)の観測から電離圏のRegion 1電流を抽出・フィッティイングを行うことで、電離圏ポテンシャルを計算するための沿磁力線電流の関数化を行った。
2: おおむね順調に進展している
本研究で行う数値シミュレーションは大きく2つの部分に分かれている。一つは電離圏境界条件として、電離圏ポテンシャルを求める部分であり、他方は磁気圏でのイオンの分布関数の時間発展を解く部分である。昨年度は、本シミュレーションにおいて、実際の観測データと数値シミュレーションを融合させる重要な部分の開発を行っており、イオンの分布関数を解くための電離圏境界条件や外側境界条件の関数化に成功している。また、試験的にイオンの分布関数を解くシミュレーション・ランを走らせることもできたので、本研究課題の進捗としては、おおむね順調に進展していると考えられる。また、昨年度に行っていた太陽風起源の高調波構造を持つtoroidal ULF波動の論文化やpoloidal ULF波動の観測についての学会発表も行っており、数値シミュレーションのみならず、多岐にわたってULF波動の研究を伸展させることができた。ポテンシャル計算に必要な電離圏電導度について、太陽放射(EUV)による電気伝導度の計算の際に用いる電離圏プラズマモデルをIRI2016モデルへアップデートすることを検討していた。しかし、このバージョンにおいていくつか未解明の問題が生じている。IRI2007モデルを使用することで、当面のシミュレーション計算には影響がないと考えられるが、複数のモジュールを組み合わせた時に発生するプログラムのバグを解消する必要があると思われる。
今後の研究の方策としては、本年度に開発した観測データに基づく電離圏・磁気圏の境界条件の入力部を用いて、実際に磁気圏中のイオンの分布関数の時間発展を解いていくことが挙げられる。検証が容易な目標としては、実際に観測されたULF波動とシミュレーション内で励起したULF波動について、波動の発生領域や振動数、波数、共鳴エネルギー等を比較することである。また、エネルギーの供給源や不安定性を生み出す粒子分布が作られるシナリオを検証することは先行研究でも行われており(Yamakawa et al., 2019, 2020)、実現可能性が高いと考えられる。今回は2013年10月29日の地磁気静穏時に起きた孤立サブストームによって注入されたイオンが励起したpoloidal ULF波動に注目しているが、他の電離圏・磁気圏環境ではどのようなULF波動が励起するかを検証することも大変興味深い。磁気嵐中、あるいは磁気嵐時に連続して起こるサブストーム時など、他のプラズマ・電磁場環境にあるイベントに基づいたシミュレーションも検討している。また、発展的な課題として、ULF波動の励起に伴い発生する、共鳴粒子の動径拡散をシミュレーション内で確認できるかを検討したい。現状、シミュレーション内で励起するULF波動の振幅は現実のそれとくらべ小さめになっており、検証するのに十分な粒子の変動が得られるのかは定かではない。また、ULF波動以外の粒子変動の要因についても明らかにしておく必要があり、シミュレーションとはいえ、多少の困難が予想される。まずは、粒子変動の証拠である粒子フラックスの周期変動を確認することから始め、その振幅を理論的に説明することを足掛かりとしたい。
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Journal of Geophysical Research: Space Physics
巻: 127 ページ: -
10.1029/2021JA029840