研究課題
本年度では、地球の内部磁気圏における1-100 keVのエネルギーを持つイオンで構成されたリングカレントのドリフト運動論的グローバル数値シミュレーションを行い、超低周波(Ultra-Low Frequency, ULF)波動の励起機構の解明を試みた。2013年10月29日にRBSPs衛星で観測されたULF波動に着目し、LANL衛星・Iridum衛星の観測データに基づいて、磁気圏・電離圏におけるシミュレーション境界条件の設定を行った。リングカレントのモデルとしては、Maxwell方程式と5次元のイオン分布関数のVlasov方程式を連立させて解くドリフト運動論的グローバルモデルを使用した。はじめに、Iririum衛星の2次元電流密度分布を空間的にフィッティングした10分値データを電離圏境界条件として与えたところ、ほぼ全期間を通して10分間隔のバースト状の擾乱が発生していること分かった。シミュレーション時間にして7,200秒後に、~7 mHzで一定の振動数を持つcompressional変動が見られた。この変動は大きな波数を持っていたため、リングカレントイオンによって励起されたULF波動の可能性がある。この変動が発生していた時間帯は、衛星でULF波動が観測された時間帯とほぼ一致している。一方で、衛星観測ではpoloidal方向の磁場変動が観測されているものの、平行方向の振動はほとんど観測されておらず、磁場変動が卓越する極性が異なる結果が得られた。この結果は、プラズマ密度やプラズマ圧などのシミュレーション設定と現実の値との違いに起因している可能性があり、波動の励起に寄与する要因を同定することにつながると考えられる。
3: やや遅れている
これまでの研究では、定常な電離圏沿磁力線電流しか与えられていなかった。時間変動する沿磁力線電流を与えることで、波動の見え方が大きく変化しうることが本研究で明らかになりつつあり、どのように電流密度分布を与えるかが大きな課題となってる。また、見えている変動が数値的な理由によるものかも含めて、その原因を総合的に判断する必要がある。現在、時間方向にフィッティングした沿磁力線電流を与えることで、データの時間分解能に起因する10分周期のバースト状の電磁場変動を取り除くことに成功しているが、それに伴いtoroidal磁場変動が生じてしまっているため、ターゲットとしていた波動粒子相互作用の結果生じる波数の大きな波が検出されにくくなっている。このtoroidal磁場変動自体は大変興味深い変動であり、toroidal波動のエネルギー源を太陽風の擾乱とする従来の考え方に一石を投じる可能性がある。このことからも、このtoroidal磁場変動の原因を解明することが重要であるが、未だ解決に至っていない。波動粒子相互作用で生じている可能性は薄いため、当初の研究目的に必ずしも沿わないテーマになってくる。したがって、どのようなシミュレーション結果の解析に注力するか慎重に判断する必要が生じている。
今後の研究の推進方策については大きく分けて3つある。1つ目はcompressional変動時の粒子の詳しい解析である。流体的な不安定性の可能性があり、イオン温度等のモーメント量の計算をすることで不安定性が生じているかどうか検証する。また、粒子の運動論的効果を検討する計算コードを追加で開発していく必要がある。2つ目は、背景プラズマ密度を変えたシミュレーション・ランの実行ならびにデータ解析である。これは既にシミュレーションの準備ができているので、計算資源を確保次第、計算を実行する予定である。背景プラズマ密度は経験モデルを使用しているが、注目するイベントではモデルよりはるかに密度の高いプラズマが観測されている。プラズマ圏のダイナミクスとULF波動の励起が関係している可能性があり、考察を進めていきたい。3つ目は、新たに得られたtoroidal磁場変動の原因を究明していくことである。toroidal磁場変動が出ることで、当初目的としていた波動がマスクされてしまい、データ解析に不都合が生じている可能性があるため、このtoroidal磁場変動の生成メカニズムを理解する必要がある。まずはポインティングベクトルなどからエネルギー源がどこにあるのか検討する必要があり、さらに電離圏境界が適切に解けているか、特に赤道側でのポワソン方程式の解について精査していく必要がある。
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