被子植物では受精後、卵核と精核の融合により受精卵核が形成される。この雌雄核の融合(核合一)は、受精卵・胚発生の正常な進行に不可欠であると考えられているが、植物受精卵の核合一過程における転写動態は明らかとなっていない。そこで本研究では、植物受精卵の核合一過程における遺伝子発現プロファイルを明らかにするために、配偶子融合後15分、30分、1時間、2時間、4時間、6時間の6つの初期発生段階におけるイネ受精卵のシングルセルRNA-seq解析を行った。この時系列トランスクリプトーム解析により、受精後15分以降の受精卵において、新規の遺伝子発現および遺伝子発現変動が検出された。核合一過程における受精誘導性の転写産物は、タンパク質相互作用データベースやGO解析によってそれらの特徴を確認した。さらに、父方アリルの活性化は、受精卵内で雌雄核の融合が始まる配偶子融合後30分から1時間頃に開始されることが明らかとなった。一方、卵細胞で特異的に発現するいくつかの転写産物の発現は減少し、また、受精卵発生初期に母方アリル依存的な発現からbi-allelicな発現へのダイナミックなシフトが起きていた。これらの結果は、核合一過程におけるこれらの転写ダイナミクスが、受精卵・胚発生の正常かつ連続的な進行に重要な役割を果たしていることを示唆している。 また、核合一不全を示す受精卵では、正常な受精卵・胚発生に必要な遺伝子発現が適切なタイミングで起きていないことが予想される。そこで、通常の受精卵と比較し、受精卵・胚発生の進行のカギとなる遺伝子群を浮かび上がらせることを目的として、核合一不全を示すイネ変異体系統の作出に取り組んでいる。これら変異体系統の発生解析と遺伝子発現解析を行うことで、受精卵・胚発生を司る分子機構の解明につなげたいと考えている。
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