最終年度となる本年度では、アクティブマターに代表されるような非線形な系におけるトポロジカル現象の基本原理の解明に向けた研究を行った。特に、2次元非線形系を特徴づけるトポロジカル指数として線形系で知られているチャーン数の拡張を提案し、そのバルクエッジ対応、即ち非ゼロな非線形チャーン数と局在状態の存在の間の対応を示した。このチャーン数は、従来、線形系で議論されてきたバンド構造や固有値問題の非線形拡張に基づいて定義される。特に、非線形系特有の現象として、非線形波動の振幅の変化によってトポロジーが変わる非線形性誘起トポロジカル相転移が起こることをモデル計算から確認し、そのトポロジカル相転移が非線形チャーン数によって捉えられることを示した。 さらに、非線形トポロジカル絶縁体のモデルにおけるゼロ固有値状態を詳細に解析することで、トポロジカルな局在状態から空間カオスな状態へも変化することを示した。このようなカオス転移は非線形系におけるバルクエッジ対応の破れを引き起こす。この結果は、従来トポロジカル物質で信じられてきたバルクエッジ対応の反例を与える結果であるとともに、非線形物理における典型的な現象であるカオスがトポロジカル物性という全く異なる分野につながっていることを示す結果でもある。これらの成果についてまとめた論文を執筆、公表した。 研究機関全体を通じて、アクティブマターに備わっている非線形性や動的不安定性がトポロジカル現象にもたらす影響を明らかにしてきた。特に、非線形性の下でトポロジカルな性質を議論するための基本原理(バルクエッジ対応など)を明らかにした。これらの成果は生物に代表されるアクティブな系をトポロジーの観点から制御するための指導原理を与えることで、今後の工学などの発展につながる成果と言える。
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