研究課題/領域番号 |
21J20272
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮武 悠人 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | プログラマブル光回路 / 光位相シフタ / 相変化材料 / GST / 2x2カプラ / AI設計 |
研究実績の概要 |
本研究では、相変化材料の相変化に基づく相変化光位相シフタ及びAI設計による小型2x2カプラからなる超小型光スイッチを集積したプログラマブル光回路による深層学習の実証を目指す。 相変化光位相シフタについては、代表的な相変化材料であるGST(Ge2Sb2Te5)を用いた位相シフタの波長2um及び2.4um近傍における位相シフト量と損失のより精密な評価を行ったほか、マイクロリング共振器にGST位相シフタを装荷し不揮発的な共振波長シフトが可能であることを実験的に実証した。また、相変化位相シフタを電気的に駆動する方法として、光導波路に導入したPIN接合を外部ヒータとして用いる方法を検討し、TCADを用いて電圧パルスを印可したときの素子の温度上昇・温度降下をシミュレーションした。これによってPIN接合外部ヒータの設計を進めた。 GST以外の新規材料探索に関しては、第一原理計算によってGSTよりも近・中赤外領域において光吸収が小さいことが予想されるカルコゲナイド系相変化材料の光学定数の測定を行った。測定結果から近赤外領域においてGSTよりも光吸収が小さくなっていることが分かり、低損失な相変化位相シフタの実現のために有望な材料であると考えられる。 2x2カプラに関しては、集積回路の構成要素として要求されるコンパクト性、低損失性、作製誤差に対するロバスト性、動作特性の低波長依存性などを満たす素子の設計に取り組んだ。非対称構造を導入することで従来構造よりも動作特性の波長依存性の小さい方向性結合器を提案したほか、進化計算の一種であるCMA-ESによってさらに波長依存性や作製誤差耐性に優れる素子の設計を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に示した通り、GSTの近赤外領域から中赤外領域にわたる屈折率と消衰係数の正確な評価を行い、加えて相変化位相シフタの一つの有用な使用方法として、マイクロリング共振器に相変化位相シフタを装荷することで中赤外領域における不揮発的な共振波長シフトを実験的に実証した。また、光学的な双方向の相変化の実証には至っていないものの、計画に沿って相変化位相シフタの電気的な駆動方法の検討を行い、光導波路に導入したPIN接合を外部ヒータとして用いる方法が最も適当であるということをシミュレーションによって明らかにし、低電圧駆動を可能とするデバイス設計も行った。さらに、GST以外の新規相変化材料探索に関しても、共同研究によって近赤外領域でGSTよりも小さな光吸収を持つ有望な新規材料を第一原理計算に基づいて同定し、光学定数の測定によってこれを実験的に示した。 2x2カプラに関しても、実施計画に則って超小型2x2カプラの設計を進めた。理論的な考察に基づいて非対称性を導入した方向性結合器によって動作特性の波長依存性を低減できることを提案したほか、進化計算の一種であるCMA-ESを用いてさらに波長依存性が小さく作製誤差耐性の大きい素子の設計に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
相変化光位相シフタについては、設計が完了したPIN接合外部ヒータの作製を行い、相変化位相シフタの電気的な駆動を実証することを目指す。初めに実証が容易であると予想されるアモルファス状態の相変化材料の結晶化に取り組み、次いで結晶状態のアモルファス化に取り組む。このとき、印可する電圧パルスの振幅および時間幅とアモルファス化の有無の関係を調べ、適切な駆動条件を調べる。さらには、多段階の相変化のために必要な電圧パルスの印可条件も併せて調べる。 新規相変化材料については、光学定数の測定をさらに進めつつ、これらを用いた相変化位相シフタを作製しGSTに比べて損失の低減が可能であることを実験的に実証する。GSTを用いることで中赤外領域においては比較的低損失な位相シフトを実証したが、これらの新規材料を用いることでより近赤外領域においても低損失な位相シフトを実証することを目指す。 2x2カプラに関しては、CMA-ESによって設計した小型かつ低損失かつ低波長依存で作製誤差耐性も高い2x2カプラの作製を進める。集積回路での使用を見据えてファウンドリーにフォトリソグラフィによる作製を外注し、単一素子の性能とチップ・ウェハスケールでのばらつきを実験的に評価する計画である。
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