最終年度として、昨年度までに行ってきた研究の基礎的作業や個別実証作業の総括・体系化を進めそれらを発信した。 まず、高車史研究に取り組んできた成果として、「杜佑『通典』に見える華夷思想:高車とレヴィレートの記述を手がかりに」を発表した。当該論文は、『魏書』と『通典』における高車の婚姻習俗に関する記録の差異を検討し、古代中国における華夷思想の実態に迫った。我々が扱う史料がそうした思想に基づき編まれた史書であると明らかにしたことは、高車をはじめとする北方遊牧民たちの歴史を研究する際に今後も重要な視座を提供する。 次に、「北魏の対柔然政策と六鎮の乱」と題する口頭発表を行った。北魏末に起きた六鎮の乱について従来の研究では、北方に居住する鎮民たちの社会的・政治的地位の下落に起因するという言説が声高に唱えられてきたが、その背景には当事者の政治的思惑が存在し、柔然を中心とする北方情勢との関係の中で原因を探っていくべきであると報告した。学会では質疑応答にて建設的な議論を展開することができ、さらに探究していくべき課題も明らかになった。 今年度はその他にも書評の投稿などを行い、研究に対する理解を深化させることができた。 また、研究期間中に取り組んできた作業において、高車とつながりが深い柔然について研究が大幅に進展した。本研究が扱ってきた時代の歴史において柔然が極めて重要なアクターであったことは、上記の論文でも示唆した。これまで築いてきた研究を基盤として、今後はより広範な視野と多角的な検討をもって高車と柔然の両勢力が与えた歴史上のインパクトについて研究を展開していきたい。
|