研究課題/領域番号 |
21J20441
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
江口 碧 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | ニュートリノ振動 / T2K / 電子ニュートリノ |
研究実績の概要 |
日本で進行中の長基線ニュートリノ振動実験である T2K 実験は、これまでに 95% 以上の信頼度で CP 対称性の破れを観測してきた。今後さらに精密なニュートリノ振動測定を行うために、ニュートリノ-核子反応の不定性や電子ニュートリノ反応の不定性に由来する系統誤差を削減する必要がある。申請者は、これらの系統誤差を削減するため、J-PARC 加速器施設敷地内に設置された前置検出器 ND280 のアップグレードに取り組んでいる。アップグレード後の新たな前置検出器を用いてニュートリノ-原子核反応断面積を精密に測定することによりニュートリノ振動の精密測定を実現し、CP 対称性の破れを探索する。 当該年度は、2022 年度に新しく導入予定のキューブ型プラスチックシンチレータ検出器 SuperFGD (Super Fine-Grained Detector) を用いた飛跡再構成や、既存の検出器とのトラックマッチングを行うソフトウェアの開発に取り組んだ。今後はこれらのソフトウェアを用いてニュートリノ反応事象選別やニュートリノ反応断面積測定を行うための手法を開発する予定である。また、SuperFGD の高度に細分化された構造を生かし、ニューラルネットワークを用いた新しい解析手法の開発にも取り組んだ。その結果、ニューラルネットワークを用いることによって従来の手法と同等かそれ以上の性能を得られる可能性があることが明らかになった。今後はさらに解析をアップデートしつつ実機のインストールを行い、新しい前置検出器を用いて実際に得られたデータを使用してニュートリノ反応断面積測定を開始する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請者は、T2K が 2022 年度に導入予定である SuperFGD を含む新型前置検出器のソフトウェアの開発に取り組んだ。また、10月から半年間スイス連邦工科大学チューリッヒ校に滞在し、現地の T2K メンバーと共同研究を行なった。進捗は当初予定していた計画と比べてやや遅れてはいるが、今後挽回が可能な範囲であると考えている。主な研究進捗としては、以下の点が挙げられる。 1. SuperFGD を含む複合検出器群の統合的飛跡再構成。SuperFGD 内部においてニュートリノ反応で荷電粒子が生成された場合、その多くが SuperFGD の外部に逃げ出してしまう。これまでの SuperFGD 関連の解析ではそれらの逃げ出した粒子のトラッキングを行なってこなかった。しかしながら、私が他の検出器エキスパートと協力してこの半年間で各検出器間の飛跡のマッチング、およびその再フィッティングを実装したため、現在ではこれらの情報を用いて統合的な解析が可能になった。 2. 飛跡再構成によって得られた情報を解析フォーマットへ変換するソフトウェアの開発。飛跡再構成の結果を用いて解析する際、解析に適したフォーマットに変換する必要がある。SuperFGD 等の新検出器についてはこれらのソフトウェアが未完成であったため、私が実装を行った。加えて、解析のための基本的なテンプレートを作成し、T2K の共同研究者が簡単に解析を始めることを可能にした。 3. ニューラルネットワークを用いた粒子識別等の解析手法の開。ETH Zurich のコンピュータサイエンティストと協力し、ニューラルネットワークを用いた粒子識別や電子・ガンマ線識別の新手法を開発している。また、近いうちにこれらの結果を論文にまとめるための準備をしている。
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今後の研究の推進方策 |
ニュートリノ振動解析の系統誤差を削減するにあたって、電子ニュートリノ反応断面積の不定性は特に大きい。申請者は、今後アップグレードした前置検出器を用いて電子ニュートリノ反応断面積測定を可能にするため、電子の飛跡再構成アルゴリズムの開発を中心に取り組む。2021 年度に各検出器間の飛跡のマッチング、およびその再フィッティングを実装したため、今後はそのアウトプットを用いて電子ニュートリノ反応事象選別、反応断面積計算、系統誤差の見積もりなどを行なっていく予定である。また、キューブ型プラスチックシンチレータ検出器 SuperFGD については、引き続きニューラルネットワークを用いた新しい解析手法の開発にも取り組む。ニューラルネットワークの性能を評価した後、これまでに構築したスタンダードな手法にニューラルネットワークの手法を組み込み、統合解析を行う。並行して検出器の組み立て・インストールを J-PARC にて行うため、一時的に現地に滞在して作業を行う。インストール後はコミッショニングや物理ランを主導し、データ取得から解析まで一連の流れを実機を用いて行う。ある程度データを取得した後は、これまでに開発した電子ニュートリノ反応断面積測定手法を用いて実際の測定に取り組む。以上の結果を元に振動解析の系統誤差削減に取り組み、CP 対称性の破れ探索を行う。
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