ニュートリノ振動は、1998年にスーパーカミオカンデ実験が大気ニュートリノの測定を通じてその存在を確認して以来、世界中で測定が進められてきた。ニュートリノ振動パラメータの精密測定は標準模型を超える素粒子理論の理解に貢献するほか、CP対称性の破れが観測されればこの宇宙の成り立ちへの理解が深まることも期待されている。 2023年度は、長基線ニュートリノ振動実験T2KとSuper-Kamiokande (SK) 実験の合同解析に取り組んだ。この二つの実験は共に岐阜県飛騨市にある Super-Kamiokande 検出器を用いているが独立した実験グループであり、それぞれがニュートリノ物理において世界をリードする結果を出し続けてきた。今回の合同解析は、T2K実験の加速器ニュートリノデータとSK実験の大気ニュートリノデータの両方を用いてニュートリノ振動解析を行うことで、より感度の高い振動パラメータの測定、ニュートリノ質量階層の順序決定、および CP 対象性の破れ探索を目指すことを目標としている。 申請者は、合同解析で用いられる系統誤差モデルの頑健性の評価とそれに伴うモデルの改善、データ解析等に取り組み、2023年10月には両実験を代表して国際会議で実験結果を報告した。その前後では解析の信頼性を高めるための様々な追加検証に取り組み、解析結果が信頼しうるものであると結論した。さらに、モンテカルロシミュレーションの統計誤差、実験データサンプルの詳細な分析、系統誤差の理解の改善、将来的な感度解析など、今後両実験を進めていくにあたって重要な解析を行なった。並行して、T2K実験のデータ取得のために茨城県東海村に滞在し、現地での検出器運用にも貢献した。 3年間の研究期間を通して、申請者はT2K実験の前置検出機アップグレードにも取り組み、ニュートリノ実験の発展に貢献した。
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