研究課題/領域番号 |
21J20603
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
横尾 舜平 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 地球コア / 高圧実験 / メタル-シリケイト分配実験 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、地球コアに含まれる軽元素の組成を特定するために高圧実験と熱力学計算を通して鉄-軽元素系のリキダス相関係を構築すること、軽元素のメタル-シリケイト間分配係数を決定することである。本年度では、1、鉄-硫黄-炭素系の高圧下での融解実験、2、硫黄と水素を同時に含む系でのメタル-シリケイト間分配実験に取り組んだ。 1、鉄-硫黄-炭素系の融解実験については、試料作製の都合から、鉄-硫黄-炭素-酸素という4成分を含む系として実験を行うこととなった。成分数が多いため、熱力学モデルの構築に必要な試料数が多くなるが、加熱時のレーザーの出力を適切に設定することで確実に複数のリキダス相を得られるようにするなど、試料作製の手順を確立することに成功した。既に複数の試料を作成しており、今後はその組成分析と熱力学モデルへの適用に取り組む予定である。 2、硫黄のメタル-シリケイト間分配実験については、水素が同時に含まれる系と含まれない系の両方において合計10個以上の試料を作成することに成功し、硫黄の分配係数の温度や圧力に対する依存性が明らかになりつつある。水素を含まない系については高圧下においても硫黄の分配係数は高く、親鉄性(マントルよりコアに多く分配される)を示すことが明らかとなった。この結果を先行研究で行われているような地球コア形成モデルに適用すると、地球にもたらされた硫黄のほとんどがコアに取り込まれることが分かった。一方で、水素が共存することで硫黄の分配係数が変化することが実験結果から見えており、地球が形成される過程で硫黄とともに水(水素)が同時にもたらされたことで現在観測されているようなマントル中の硫黄濃度が実現されるのではないかと考えられる。今後はコア形成モデル計算を通して地球形成に関する仮説の検証をすることを計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的の一つ目である鉄-軽元素系のリキダス相関係の構築については、実験的手法の確立に成功したため、今後は試料を効率よく作成できることが期待できる。また、熱力学モデルの構築についても先行研究を用いたテスト計算は進んでおり、実験試料ができ次第自身のデータを適用する準備ができている。 もう一つの目的であるメタル-シリケイト間の分配実験については、硫黄と水素を含む系の分配実験は既に研究結果をまとめるのに十分な数の試料が作成できており、実験の段階はおおむね完了したと考えている。また、その結果を実際の地球に適用するためのコア形成モデルも準備ができており、計算を始めている。 以上より、当初から計画していた研究内容については手法面を確立できたものが多く、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
リキダス相関係の構築については、近年火星コアに関する研究が世界的に盛んであるため、当初の計画を変更し、火星コアに相当する条件下での実験を優先して行うことを計画している。火星コアのための研究は20~40万気圧程度と、地球コアよりも低い圧力で十分であるため、実験面でも熱力学モデルの面でもより迅速に結果が出せることが期待でき、最終的な目標である地球コアへの適用のためのテストにもなると考えている。特に2021年度に試料を複数作成した鉄-硫黄-酸素-炭素系の研究を重点的に進める予定である。 また、1種類の軽元素を含む2成分系の先行研究をもとに、熱力学モデルが100万気圧を超えるような超高圧まで適用可能なのかを検討し、元素間の相互作用の圧力依存性の傾向を調べることを目指す。 メタル-シリケイト間分配については、実験結果は既に得られているため、コア形成モデルへの適用を予定している。特に硫黄については先行研究で複雑なモデルが提案されているが、軽元素間の相互作用を考慮することで結果が大きく変わる可能性がある。自身の実験から明らかになった水素の影響をモデルに含めた時に先行研究の仮説が成立するのか、それぞれの妥当性を検討することで地球の形成過程を明らかにすることを目指す。
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