研究課題/領域番号 |
21J20621
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
櫻井 亮輔 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 原始惑星系円盤 / 初期太陽系 / 鉄 / 円盤ダスト / 化学反応速度論 |
研究実績の概要 |
原始太陽系円盤では,円盤ダストの主要構成物であるケイ酸塩の凝縮よりも低い温度で硫化鉄の凝縮,すなわち鉄の硫化反応が起こったと考えられている.この際,円盤ガスのH2Sと反応するFeの存在形態としては金属鉄のほか,ケイ酸塩や酸化鉄といった相が考えられる.本年度は,ケイ酸塩のなかでもとりわけ始源的な円盤ダストの主成分と考えられている非晶質ケイ酸塩中にFeが存在した場合の円盤条件を議論するため,Feに富む非晶質ケイ酸塩の酸化還元実験および酸素同位体交換実験を行った.具体的には,原始太陽系円盤を模した低圧のH2+H2O混合ガス中での高温加熱条件を達成するため,既存の真空加熱炉にH2/H2O比を調整可能な混合ガス導入系を接続し,実験をおこなった.
酸化還元実験では,Mg/(Mg+Fe)~0.5のオリビン組成の非晶質ケイ酸 (非晶質オリビン) をH2O分圧0.01 Pa,480°Cの条件で加熱したところ,ガス分圧比がlog(H2/H2O)~2以上ではオリビンと金属鉄が晶出する一方,それ未満ではオリビンと酸化鉄が晶出した.また,同様にH2O分圧0.01 Pa,480°Cの条件でおこなった酸素同位体交換実験では,18Oに富むH2Oガスと非晶質ケイ酸間の酸素同位体交換速度はFeを含まないフォルステライト組成の非晶質ケイ酸塩より速いものの,数~数十倍に留まるということが確認された.この速度を非晶質オリビンの結晶化速度および円盤寿命と比較すると,太陽型の16Oに乏しい酸素同位体組成を持つ非晶質オリビンが円盤内で結晶化せずに地球型の16Oに富む組成へと進化する円盤条件は,フォルステライト組成の非晶質ケイ酸塩に比べて限定的であることがわかった.このことは,円盤の非晶質ケイ酸塩ダストはFeに乏しく,Feのほとんどは金属鉄などの別の相として存在していた可能性を示唆する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
原始太陽系円盤における金属鉄の硫化反応を議論するにあたり,その前提となる円盤での鉄の存在形態を決定するため,Feの入った非晶質ケイ酸塩の酸化還元実験および酸素同位体交換実験をおこなった.その結果,初年度においては金属鉄の硫化実験を行うことができず,進捗状況はやや遅れていると感じる.
一通りの酸化還元実験および酸素同位体交換実験が終了したことから,真空加熱炉を硫化鉄形成実験のために使用できる状態であり,さらに出発物質として用いる金属鉄粉末は調達できているため,今後は硫化鉄形成実験を順調に進めることができると考える.
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今後の研究の推進方策 |
太陽系初期に起きた中程度揮発性元素の分別過程を制約する鍵となる化学反応として,原始太陽系円盤での硫化鉄形成反応のメカニズム・反応速度を決定する.
これまでの研究から,原始太陽系円盤には金属鉄が豊富に存在した可能性が示唆された.そこで,金属鉄を出発物質として円盤の低圧下での硫化鉄形成実験および加熱試料の組織・組成分析を行う.まず硫化鉄形成実験用に真空加熱炉のガス導入系の改造を行い,装置内にHe-H2S混合ガスとH2ガスを太陽系存在比に等しい比率で導入できるようにする.予備実験として,先行研究である Lauretta et al. (1996) に近い温度・時間条件で硫化鉄形成実験をおこなう.
さらに,硫化反応の進行に寄与すると考えられる温度,全圧,保持時間,H2S/H2比,粒径を系統的に変化させた実験を実行する.加熱した試料からは走査型電子顕微鏡を用いて,加熱試料の形状・表面組織・組成情報を得る.また,内部組織や構造を集束イオンビーム加工装置,透過型電子顕微鏡で調べる.相同定にはX線回折装置も用いる.これらの分析を通じて硫化反応速度の温度,圧力,H2S/H2比,粒径に対する依存性および反応律速段階を決定することで,原始太陽系円盤における硫黄の分別が,1) 不十分な化学反応によるのか,2) 円盤内物理プロセスによるのかを明らかにする.いずれの場合も硫黄の分別を可能とする円盤条件で,他の中程度揮発性元素の凝縮過程の進行度もあわせて考察し,原始太陽系円盤での中程度揮発性元素分別過程に制約を与える.
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