原始惑星系円盤において,金属鉄は硫黄をガスから凝縮させるための反応物として作用する.しかし,始原隕石のマトリックスに保存された非晶質ケイ酸塩ダストの観察から,円盤のごく初期段階において鉄の多くは非晶質ケイ酸塩に陽イオンとして含まれていた可能性が示唆されている.一方で,その鉄に富む組成は母天体変成の結果とも考えられており,未だに決着がついていない.そこで,我々はダストの酸素同位体に注目し,FeO富む非晶質ケイ酸塩ダストが円盤に存在していた場合に,実際の隕石物質のもつ地球に近い酸素同位体組成を説明可能か検証するため,FeOに富む非晶質ケイ酸塩と水蒸気の酸素同位体交換反応速度を実験的に調べた.円盤ガスを模擬した低圧の水素と水蒸気の混合ガスフロー中で,FeOに富む非晶質ケイ酸塩ナノ粒子粉末を様々なガス比,圧力,温度,時間の条件で加熱した.加熱試料の酸素同位体組成を二次イオン質量分析計で測定した結果,酸素同位体交換反応がFeOを含まない非晶質ケイ酸塩に比べて速く進行することがわかった.円盤におけるダストの結晶化や運動を同時に考慮すると,FeOに富む非晶質ケイ酸塩ダストはより低温でも酸素同位体交換が完了するため,実際の隕石物質の酸素同位体組成を説明可能であるばかりか,鉄に乏しいものに比べてより粒径の大きい粒子も地球に近い酸素同位体組成に進化できることがわかった.したがって,始原隕石中の非晶質ケイ酸塩の鉄イオンに富む組成が母天体変成によるものではない場合,原始太陽系円盤の初期段階において,非晶質ケイ酸塩が円盤中の鉄の多くをイオンとして保持していた可能性は否定されない.
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