研究課題/領域番号 |
21J20631
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 駿 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 金クラスター / 光電子分光 / 配位子効果 |
研究実績の概要 |
本年度は、部分露出した配位子保護金属クラスターの電子構造評価に向けて、気相光電子分光装置の測定効率の大幅な改善と性能実証を行った。気相光電子分光装置は下記の3段階からなる:①液相合成した配位子保護金属クラスターのイオン化と真空装置への導入;②飛行時間型質量分析による質量選別;③質量選別されたイオンの光電子分光。①については、四重極線形イオントラップの設計と導入を行った。従来は、①で導入されたイオンの0.2%程度が②に使われていたが、イオントラップへのイオンの蓄積と放出のタイミングを②の質量選別と同期することでイオン強度と光電子数の2桁程度の増強と測定効率の大幅な改善を達成した。この装置がPdAu24(C≡CR)18のような完全に被覆された配位子保護金クラスターだけではなく、PdAu24(C≡CR)16やPdAu24(C≡CR)14のような一部の金属原子が露出したクラスターにも適用可能であることを、質量分析のイオン強度の劇的な向上により確認した。 改良した気相光電子分光装置を応用することで、液相合成したPdAu24(C≡CR)18の配位子を電子求引性の (CF3)2C6H3C≡Cから一般的な PhC≡Cへと1つずつ置換していくとクラスターの電子親和力が配位子の置換数に比例して減少することを明らかにした。液相における配位子の置換数の制御や精密分離は多大な労力を要するが、質量選別と気相光電子分光を組み合わせることで特別な前処理をすることなく置換数に応じた電子構造の変化を測定することが可能になった。さらに、配位子置換された金属クラスターについて密度汎関数法による構造最適化とエネルギー計算を行い、電子親和力の減少が共役効果によるものではなく誘起的な効果によるものであることを示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
被覆率が低下した金属クラスターの電子構造を評価する方法として気相光電子分光に注目し、装置にイオントラップを新規導入することでイオン強度の大幅な増強を達成した。改良した装置を用いて金クラスターの電子親和力に対する電子求引性配位子の役割を明らかにした。上記の装置を用いた気相光電子分光は被覆率が低下した金属クラスターにも適用可能であり、構造や反応活性の起源を考察するための基盤技術になると考えている。 本年度に予定していた被覆率が低下した金クラスターの質量分析と量子化学計算による構造推定は、昨年度にPdAu24(C≡CR)18とその衝突誘起による生成物について行ったところ、被覆率の低下に伴い8電子を維持したコア周りに2電子のAu2ユニットが集積していく興味深い現象を見出した。本年度はさらに電子構造を評価するための装置改良も達成したため、当初の計画以上に研究が進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は上記の改良した装置を用いて、被覆率が低下した金属クラスターの気相光電子分光を行う。量子化学計算による幾何構造の探索と組み合わせることで、被覆率が低下した配位子保護金クラスターの構造を明らかにする。 また、部分露出した配位子保護金属クラスターを真空中ではなく大気圧下で取り扱うための装置の設計を行う。実際に触媒反応やクラスター変換反応に利用可能な量の金属クラスターを得ることを目標として、衝突誘起解離により一部の配位子を脱離させた金属クラスターを固体上にランディングする。収量とトレードオフの関係にある質量選別や真空装置への導入を可能な限り避けるため均一圧力下で衝突誘起解離とランディングを行い、途中でイオンを質量分析装置に分取できるようにすることでランディングしたクラスターの組成分布を把握できるようにする。
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