本年度は、一昨年度に測定効率を劇的に改良した気相光電子分光装置を用いて部分露出した配位子保護金属クラスターの電子構造評価を行った。また、カールスルーエ工科大学(ドイツ)との国際共同研究を行い、イオン移動度分析を用いた幾何構造評価も行った。 8電子超原子である[PdAu24(C≡CR)18]2-からジインが還元的脱離して生成する10電子系クラスター[PdAu24(C≡CR)16]2-の電子構造を光電子分光と量子化学計算の両面から検討した。その結果、[PdAu24(C≡CR)16]2-の構造として、正二十面体PdAu12コアに対してAu2(C≡CR)3由来のAu2(C≡CR)1ユニットが結合した構造が得られた。10個の価電子はPdAu12コアに8電子、Au2ユニットに2電子が分布しており、異核超原子分子に対応した。イオン移動度分析による衝突断面積の測定においても、Au2(C≡CR)3からAu2(C≡CR)1ユニットが生成することを示唆するデータを得た。 また、Au13コアを持つ8電子超原子である[Au25(SR)18]-から金チオラート錯体が脱離して生成する8電子系クラスター[Au21(SR)14]-と[Au17(SR)10]-についても同様の検討を行った。その結果、[Au21(SR)14]-では閉殻電子配置の正二十面体Au13コアが保持されるのに対して、[Au17(SR)10]-では正二十面体のAu13コアを保持した構造はアモルファスな構造に比べて1.5 eV以上も不安定だった。後者の最安定構造は、2つの扁平型のAu7超原子が頂点共有した超原子分子に対応した。 これらの結果を2報の英語原著論文として報告した。また、これらの結果は衝突誘起解離が部分露出した金クラスターに留まらず、新奇な電子・幾何構造を持つ金クラスターを創出する手法になり得ることを示している。
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