研究課題
前年度に開発した光電子強度分布シミュレータをさらに改良し、より近似の少ない計算手法を構築した。これまでの光電子強度計算では、光電子の運動エネルギーが十分高いことを前提に光電子状態の記述が行われてきた。そのため、低エネルギー光電子分光においては近似が成り立たず、より精度の高い手法を取り入れる必要がある。このような計算手法は近年研究が進められてきたが、現段階では光電子状態の記述に様々な表式が存在しており、どれが適切なものであるかは明確になっていなかった。そこで、前年度に発表した光電子励起の理論論文に基づき、低エネルギー光電子分光にも適用できる光電子波動関数の計算手法を構築した。計算においては、第一原理計算で得られるポテンシャル分布を用い、放出光電子に対応する平面波波動関数が真空中に現れるように励起状態を計算した。新たに構築した光電子状態計算手法を、遷移金属ダイカルコゲナイド1T-TiS2の光電子分光スペクトルに適用し実験結果の再現性を議論した。従来の近似手法である平面波近似を用いた場合と比較し、光電子分光スペクトルの光エネルギー・入射偏光依存性をより良く再現できることを明らかにした。計算により求めた励起状態波動関数を詳しく調べると、固体中では様々な波の和に分解できることが分かった。平面波近似ではこれが単一の波であると仮定されているため、この違いが実験結果のより良い再現性に寄与しているといえる。真空中において平面波となるよう設定しているため、境界条件から固体中波動関数は様々な波の和になる。固体中のポテンシャルを平坦であると仮定しても進行波と反射波に2つの成分が必要であり、実際に反射波成分が存在することも定量的に示すことができた。
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Physical Review Letters
巻: 132 ページ: 136402
10.1103/PhysRevLett.132.136402