研究課題/領域番号 |
21J20670
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿内 みのり 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 連星中性子星合体 / ショートガンマ線バースト / 電波観測 |
研究実績の概要 |
本年度は、CHIMEのデータの取り扱いについて学びながら、データ内のエイリアシングを取り除くコードを作成した。ここでいう『データ』は、明るさの全天分布(マップ)を指す。 我々の先行研究である、CHIMEによるショートガンマ線バーストからの残光の観測可能性を見積もる際、単純なノイズモデルを仮定していた。しかし、実際のデータを見ていくと、多様な特徴が見られることが分かった。特にエイリアシングは、日本語では『折返し雑音』とも呼ばれ、サンプリング周波数よりも高周波な成分が含まれている際に生じる現象である。全天マップ上に見られるエイリアスは実際の天体と同じ光度を持ち、実際の天体が明るければエイリアスによる影響が大きくなる。 また、エイリアスの位置は周波数ごとに異なり南北方向に動きうるため、この内のいくつかの周波数データを用いてデータを平均する際に問題となる。電波観測では、テレビや携帯電話といった人間の活動に起因する電波信号による干渉の影響が無視できない。人工物による影響が大きい周波数に関しては、その周波数データを解析に用いることができない。日々、どの周波数のデータが捨て去られるかは変化する。ゆえに、データを平均する際に、ある日にはAという周波数成分が用いられるが、別の日にはその成分は用いられないということが起きうる。そこで、Aの周波数成分でエイリアスが生じていた位置に注目すると、Aのデータが含まれた際と含まれない場合で平均化した後の明るさは異なる。以上から、エイリアスが存在するピクセル上で探査対象の残光のように明るさが時間変動する様子が見られる可能性があり、偽陽性の原因となり得る。エイリアシングを除去するために、線型回帰モデルを元に構築したフィルターを全天マップに適用した。これにより、エイリアスの光度を実際の光源の光度の数パーセント未満まで明るさを減らすことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はカナダのバンクーバーにあるブリティッシュコロンビア大学に長期滞在しながら研究を遂行しているため、概ね順調に進展しており、また統計的な手法によってデータ処理を行うこともできた。 エイリアスによる影響を少なくするために、当初はCHIMEが取得している全天マップの周波数データ中で中央値を取ることを考えていた。研究の合間に行った雑談の中で、『線型回帰モデルに基づいたフィルターを構築し適用することでエイリアスを除去することもできるだろう』という話があり、その方向でデータ処理を行うことに決めた。これにより、中央値を取る方法よりも、統計的にデータを処理することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、処理したデータを用いて連星中性子星合体の観測頻度の上限を予想する。 手順は以下の通りである。まず、処理した全天マップについて、いくつかピクセルを選び出す。これらのピクセルには、ショートガンマ線バーストからの残光は含まれていないと仮定し、用意した残光の理論曲線を用いながら尤度比(データが信号を含んでいると考えられる確率と、信号は含まれておらず雑音しか含まれていないと考えられる確率の比)を計算する。次に、各ピクセルに理論曲線を足し合わせ、尤度比を計算する。この時、理論曲線を足し合わせる前の尤度比よりも大きい値が得られた残光の空間領域を除外していくことで、CHIMEによるショートガンマ線バーストからの残光観測頻度の上限が得られる。ショートガンマ線バーストと連星中性子星合体については、GRB 170817AとGW170817の観測から関連性が報告されているため、この結果から連星中性子星合体の観測頻度についても言及しうる。
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