本年度は課題の研究のまとめに入った。 共生細菌などに見られる大規模なゲノム構造の変化は、ゲノムDNA中を動き回る遺伝子であるトランスポゾンの活性によることが多い。自然界で起こる進化を高速に模倣することを本研究課題では目指している。 本年度は、高活性トランスポゾンにより高速に進化する大腸菌の実験室進化の解析を行った。昨年度に引き続き、実験系の改良を重ねた上で、本年度は、実際に開発した実験系が自然界のゲノム進化を再現しつつも高速に進化することの検証を目指した。自然界では、宿主に依存して生育する共生細菌やホストに感染する病原菌において、トランスポゾンのコピー数が数百コピーにまで増大することが知られている。先行の研究においてトランスポゾンが増大する理由として、定常で栄養豊富な環境下での中立進化下で、何らかの理由でトランスポゾンの活性が上がることが挙げられていた。こうした条件を再現した条件で作成した大腸菌株を10週間進化させた。トランスポゾンの増加に伴う構造変異の蓄積を捉えるために長鎖DNA解析を行った。結果、大腸菌の野生株で10年かけて起きる程度のトランスポゾンの増大や構造変異の蓄積が見られた。少なくともトランスポゾンに駆動された進化という観点では、100倍近い進化の高速化が見られたといえる。現在、論文をまとめているところである。 また、副次的なテーマとして行っていた内部共生に関する理論研究に関しても、まとめにむけた解析を行った。前年度まで用いていた数値計算のモデルが抽象的すぎるという問題があった。そこで、本年度は、より単純かつ共生関係のイメージが湧きやすいモデルを用いて、同様な結果が得られることを確認した。これも、現在論文をまとめているところである。
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