宇宙線は宇宙空間を飛び回る高エネルギーの荷電粒子のことであり、我々の銀河内では熱的な粒子や磁場などの他のエネルギー成分と同程度のエネルギー密度をもって、様々な天体現象に影響を及ぼしていることが知られている。宇宙線を高エネルギーにまで加速する理論として、天体衝撃波における衝撃波加速という標準理論があるが、銀河宇宙線の最高エネルギーやそのエネルギー分布など、標準理論では説明できない観測事実もある。本研究課題は、標準理論で考えられていなかった、衝撃波が伝播する媒質中の非一様性に着目し、その宇宙線加速に対する影響を調べるものである。 昨年度の研究では、加速された宇宙線がプラズマ中に電流を誘起することにより、抵抗性加熱を生じさせ、プラズマの温度を上昇させるという効果が初期宇宙の銀河周辺で重要であることを発見した。現在の銀河間空間は高温の電離プラズマで満ちているが、宇宙で最初の銀河ができた頃には、加熱・電離源となる天体が十分に存在せず、低温中性のガスとなっている。このような初期宇宙の銀河周辺では天体からのX線による加熱により、銀河周辺が部分的に加熱・電離されていると標準的に考えられている。しかし、宇宙線加速は初期宇宙の銀河でも期待されるため、宇宙線によるガスの加熱・電離も起こりうる。本年度は上述の宇宙線による抵抗性加熱の効率をX線による加熱効率と比較し、宇宙線による加熱がX線加熱より支配的となる状況があることを定量的に示した。本研究結果を論文として発表し、国内外での学会発表も行った。初期宇宙の銀河間空間の加熱の様子は、将来の電波観測で調べることが可能になると期待されており、観測シグナルの理論的予言に向けて研究を進展中である。
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