研究課題
本年度では、サブミリ波帯多色カメラの超伝導回路上に集積化するオンチップバンドパスフィルターおよび超伝導光子検出器であるマイクロ波力学インダクタンス検出器(MKID)を設計した。当初、オンチップフィルターとMKIDの両者ともに製造が比較的容易なコプレーナ線路を基本構造に定めて構成した。オンチップフィルターから後段の1/4波長共振器型ハイブリッドMKIDへと光子を高効率に伝送させるべく、バンドパスフィルター回路の終端素子を変更し、フィルター-MKID間の接続を中間構造なしに成立させた新設計を考案した。そしてコプレーナ線路の放射損失が抑制されるような超伝導体NbTiN薄膜の高いシートインダクタンスLs=1pH/sqを仮定してフィルターの構造を決定できた。放射を考慮した電磁界シミュレーションの結果、概ね期待通りのバンドパス特性が得られた一方、フィルターの構造に由来する放射損失がバンド内で数十%程度発生することが判明した。そこで代わりに放射損失の少ないマイクロストリップ線路を基本構造としたフィルターも設計し、最終的にコプレーナ線路もしくはマイクロストリップ線路の2通りの構造それぞれでミリ波帯3バンド(150/220/270GHz)に対する設計最適解を得た。更に設計と並行して、超伝導回路の試作および極低温試験を実施した。最小2μm程度までの微細加工により回路パターンが作れること、また回路の図面と製作品との間に差異が生じうることについての調査を積み重ねた。その上で、試験的にオンチップフィルターと半波長共振器を直結させたニオブ製の超伝導回路を作製し、極低温下に置いた各素子から共振信号が読み出せることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
本年度は多色検出器の中でも特にオンチップフィルターの設計の具体化が進んだ。以前に設計されたオンチップフィルターの問題点に気付き、その改善を図って回路の根本から見直して新設計を導けたことは、多色カメラの高感度化に寄与する大きな進展であった。また超伝導回路の段階的な試作や極低温試験に着手できており、順調に実測データを蓄積しつつある。
サブミリ波帯多色カメラのプロトタイプとなる8ピクセルのミリ波2偏波3色検出器アレイを製作する。オンチップフィルターに加え、直交偏波分離器や超伝導光子検出器MKIDといった一連の検出器回路素子の設計を具体化する。検出器アレイの高密度化を目指し、単位ピクセル内においてMKIDをコンパクトに配置できるような回路設計案を出す。また設計と同時並行で段階的に試作および測定評価を実施する。特に最優先で、オンチップフィルターと連結させたMKIDの極低温下での光応答を測定する。ミリ波3色用検出器アレイの試験結果をフィードバックして多色カメラ搭載用のミリ波3色・サブミリ波3色用検出器回路を設計する。
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Journal of Low Temperature Physics
巻: 209 ページ: 1143~1150
10.1007/s10909-022-02795-9