研究課題
維管束組織は、植物の主要な輸送システムとして機能しており、主に水分や無機塩類を地下部から地上部へ輸送する木部と、ソースからシンクへ光合成産物を輸送する篩部によって構成される。維管束組織の二次成長過程では、内部に存在する幹細胞領域である形成層の細胞が分裂および二次木部細胞・二次篩部細胞への分化を行うことで組織肥大が起こる。近年、形成層の内部に多分化能性を保持する形成層幹細胞が存在することが実験的に示されたが、形成層幹細胞の運命制御機構は不明であった。本研究では、主に維管束細胞の分化誘導系VISUALを用い、形成層幹細胞の運命制御機構を解析しており、これまでに (1)発光イメージングを用いた形成層幹細胞の遺伝子発現動態の1細胞イメージング、(2)形成層幹細胞の運命制御を司る因子の探索を行なってきた。(1)に関してはVISUALに応用する基盤技術の開発が完了し、これらの結果を論文としてまとめ、出版することができた。(Shimadzu et al., 2022 Quant. Plant Biol.)(2)については、これまでにVISUALを用いたマルチオミクス解析を行い、形成層幹細胞の運命制御を担う候補因子としてサイトカイニンを同定していた。本年度は発光イメージングによりサイトカイニン応答の生体維管束における特徴的な時空間的動態を捉えることに成功し、サイトカイニンは生体維管束における二次成長開始に関与することが分かった。イメージング動態に基づいたRNA-seq解析により、サイトカイニン応答の動態を生み出す分子経路についても示唆が得られている。生体維管束のRNA-seqデータをVISUALのマルチオミクスデータと統合しすることにより、サイトカイニンは二次成長開始に伴う形成層幹細胞の活性化の過程で、分裂の促進と木部分化ポテンシャルの付与の両方に関与することが判明した。
2: おおむね順調に進展している
(1)の研究項目に関しては、当初の計画通りに基盤技術の開発を完了させることができ、論文化まで辿り着いた。開発の目的としていた、(2)への時空間発光イメージングの応用も達成した。(2)の研究項目においては、生体維管束とVISUALを用いた統合的な解析によって、主要因子が形成層幹細胞活性化の際にもたらす影響が明らかにされつつある。これらに基づいた変異体や阻害剤を用いた解析は現在順調に進行している。当初計画していた1細胞遺伝子発現解析は完遂することは出来なかったが、所属研究室の共同研究で取得したデータを代替して使用する予定である。総合し、研究は概ね順調に進展していると判断した。
最終年度は(2)の研究項目について残る解析を完了させるとともに、結果のまとめを進める。サイトカイニンの生合成に関与する遺伝子の変異体を用いてこれまでと同様の解析を行い、比較解析からサイトカイニンが形成層幹細胞の分裂活性化と木部分化能の付与をもたらすメカニズムをより詳細に明らかにする。また先行研究の1細胞RNA-seqデータを、VISUALを用いたマルチオミクスデータと統合し、二次成長開始とともに活性化する維管束幹細胞の特徴付けを目指す。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件)
Quantitative Plant Biology
巻: 3 ページ: -
10.1017/qpb.2022.12
Plant and Cell Physiology
巻: 64 ページ: 274~283
10.1093/pcp/pcac161