研究課題
2022年7月からデータの公開が始まったジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)によって、銀河形成の理解に欠かせない初期宇宙の銀河を直接観測することが可能となった。そこで本研究では、JWSTの近赤外分光器(NIRSpec)のデータを用いて遠方銀河の性質を調べた(成果2)。また、NIRSpecの面分光装置のデータ公開が今年度から本格化するのに備えて、近傍宇宙において初期宇宙の形成初期銀河と似た性質をもつ極金属欠乏銀河の動力学的特徴を報告した(成果1)。今年度の成果は以下の通りである。成果1: 我々の主導するすばる望遠鏡の面分光装置による観測で得られた非常に波長分解能が高いデータを用いて、極金属欠乏銀河にみられる速度構造を詳細に測定した。その結果、通常の星形成銀河に見られるような系統的な回転運動が極金属欠乏銀河にはほとんど見られず、むしろ分散運動が支配的であることを報告した。また、その原因として、初期銀河は外部との物質のやりとりが盛んであることから、円盤構造が発達しきっていない可能性を議論した。宇宙論的流体計算で予測される遠方初期銀河も分散運動が支配的であることから、実際の遠方初期銀河も同様に分散運動優位である可能性が高いと予測できる点で重要な結果である。これらの結果を主著者として論文にまとめ査読誌に提出し、掲載が受理されている。成果2: 昨年運用を開始したばかりのJWSTの公開分光データを用いて、赤方偏移4-9の遠方星形成銀河における星間物質の密度を世界に先駆けて報告した。また、星間物質の密度が赤方偏移に対し増加傾向があることを示し、遠方に行くにつれて銀河がコンパクトになる効果などで説明できる可能性を議論した。これらの結果を主著者として論文にまとめ、査読誌に提出した。成果1、2の内容を国内外の研究会等で報告し、他の研究者と活発な議論を行なった。
1: 当初の計画以上に進展している
2021年から開始したすばる望遠鏡の面分光装置を用いた極金属欠乏銀河探査EMPRESS 3Dも2022年で終了し、天候にも恵まれたことで目標の天体数を達成することができた。2021年までの結果は私が主著者として執筆した論文にまとめられており(査読済)、2022年に取られた天体も含めたEMPRESS 3D全ての結果は私が第三著者として貢献した論文にまとめられ、査読誌に投稿されている。また、2022年7月からジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のデータ公開が開始され、これまでにない感度で観測された近赤外光のデータが得られるようになった。私は主に分光データの解析に携わり、遠方銀河の電子密度をまとめた主著論文を世界に先駆けて報告することができた。
前年度までの研究内容である、遠方宇宙の形成初期銀河の類似天体である近傍の極金属欠乏銀河に対して行った化学組成・動力学研究の手法並びに議論をそのまま応用し、本年度はNIRSpecデータあるいはNIRSpec IFUデータを用いて実際の遠方銀河の化学組成と動力学を調べる。化学組成に関しては、2023年4月時点で公開されているNIRSpecデータを全て用い、得られた結果をまとめ2023年5月頃に査読論文誌へ投稿する。また、本年度に公開されるデータも即座に解析し、論文にまとめ報告する。また、NIRSpec IFUのデータも今年度から順次公開されるので、本研究では公開データを集めてなるべく多くの遠方銀河の動力学的特徴を調べ、論文にて報告する。JWSTデータを使った研究は世界的にも注目度が高い一方で、日々多くの関連論文が投稿されているので、国際会議等で研究内容を発表することも非常に重要になってくる。そこで本年度は、得られた結果を国内外の研究会で発表するなどし、他の研究者と活発に意見交換をすることも例年以上に重視する。
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すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 6件)
The Astrophysical Journalに掲載受理済
巻: - ページ: -
10.48550/arXiv.2206.04709
The Astrophysical Journalに投稿済
10.48550/arXiv.2301.06811