研究課題/領域番号 |
21J20812
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 宏太郎 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | トポロジカル磁気構造 / ヘッジホッグ / スキルミオン / 創発電磁場 / トポロジカル相転移 |
研究実績の概要 |
申請者は、昨年度から博士後期課程へと進学し、研究課題である金属磁性体におけるトポロジカル磁気テクスチャと創発電磁現象の理論研究についてより一層踏み込んだ研究をしてきた。具体的には、まず、螺旋磁気構造の重ね合わせとして理解される三次元磁気構造である3Q磁気ヘッジホッグ格子というトポロジカル磁気構造に着目した。このような重ね合わせを一種のモアレと捉え、重ね合わせの相対角度の変化がトポロジカルな性質や量子輸送現象の変化に重要な役割を果たしていることを解析的・数値的に示した。また、変分法を用いることでこれらの変化が磁場によって生じうることを明らかにした。 さらに、上述の磁気ヘッジホッグ格子に加えて、近年理論と実験の両面から盛んに研究が行われている磁気スキルミオンにまでターゲットを広げ、重ね合わせの位相という隠れた自由度に着目した研究を行った。一般的に、磁気的な性質への位相自由度の影響が高次元空間の導入により系統的に議論できることを明らかにするだけでなく、典型的な磁気構造に対してこの手法を適用、トポロジカルな性質の位相依存性を系統的に明らかにした。加えて、いくつかの先行研究の中で見つかっていた磁場が誘起する磁気構造のトポロジカル相転移が、位相自由度の変化と結びついていることを明らかにした。本研究結果について国内外での研究会で口頭発表を行い、日本物理学会秋季大会での発表は学生優秀発表賞を受賞した。申請者はこうしたトポロジカル磁気構造に対する研究だけでなく、非平衡状態が誘起する創発電磁現象にも現在取り組んでいる。具体的には、一次元キラルソリトン格子に対して振動磁場を加え、共鳴的な励起を引き起こすことで有限の創発電場が生じ、それが強磁性転移の近傍で顕著な増大を示すことを数値計算によって示した。本結果に関して、国内の研究会で発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は、遍歴電子と局在スピンの結合を取り入れた有効スピン模型を対象として、トポロジカル磁気構造の安定性や制御性に関する研究を推し進めてきた。とりわけ、三次元トポロジカル磁気構造であるヘッジホッグ格子を対象とした研究を行い、外部磁場によってこうした複雑なトポロジカル磁気構造を制御可能であることを見出した。さらに、磁気ヘッジホッグ格子等のトポロジカル磁気構造がしばしば複数のスピンの波の重ね合わせとして理解されることを利用し、こうしたトポロジカル磁気構造を一種のモアレとみなす「スピンモアレ」という概念の提唱も行った。通常のモアレでは波の重ね合わせ方をわずかに変えるだけでその構造が大きく変化することを利用し、トポロジカル磁気構造においても外場の変化を通じて波の重ね合わせ方、ひいては磁気構造やトポロジカルな性質を制御可能であることを示した。スピンモアレという観点はトポロジカル磁気構造の制御を議論するうえで統一的な視点をもたらすものであり、研究は順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまであまり重点的に扱ってこなかった近藤腰模型に着目した研究を進める予定である。磁気構造やそのトポロジカルな性質は勿論、磁気構造のトポロジカルな性質が変化するトポロジカル相転移現象にまで目を向けた研究を行う。具体的には、これまでの研究で培ってきた磁気構造の安定性に関する知見を利用し、こうした磁気構造を非平衡外場によって制御することを目指す。これまでの研究では平衡状態を扱っていたため創発磁場に着目した研究が多かったが、こうした非平衡現象においては創発電場も物理現象に重要な影響を与えうる。創発磁場と創発電場の両者の影響を明らかにすることで、非平衡外場によるトポロジカル相転移や創発電磁現象の開拓を目指す。
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