研究課題/領域番号 |
21J20856
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
北山 圭亮 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 光誘起相転移 / フロケ理論 / トポロジカル相転移 |
研究実績の概要 |
本研究は光照射した強相関系の光誘起トポロジカル相転移を理論的に予言することを目的にしている。そこで以前より扱ってきたα型の分子配列を持つ有機導体を対象にして直線偏光を照射したときの振る舞いを、フロケ理論を用いて解析した。その結果、運動量空間に存在する2つのディラック点に対応して生じる創発的反平行磁束量子ペアが対消滅することを予言した。この対消滅現象に伴い、ディラック半金属相から通常の絶縁体相への相転移が起こることを明らかにした。この内容は直線偏光の光の強度と偏光角度の平面に描いた相図と合わせて論文としてまとめ、Phys. Rev. Bに掲載された。 さらに、円偏光と直線偏光の中間とも言える楕円偏光を照射したときは新しいタイプの光誘起トポロジカル相転移が起こることを明らかにした。ディラック半金属相に楕円偏光を照射すると時間反転対称性の破れに起因してディラック点にギャップが開いてチャーン絶縁体に相転移するが、この状態からさらに光の強度を強くすると、ギャップの開いたディラック点のペアが衝突・崩壊してバンド絶縁体への相転移が起こることが示された。フロケ理論を用いた2次元ディラック半金属の光誘起トポロジカル相転移は、ディラック点にギャップが開いてトポロジカルに非自明な状態へと相転移するものが主であったが、このディラック点対の衝突・崩壊に伴う光誘起トポロジカル相転移はトポロジカルに非自明な状態からトポロジカルに自明な通常の絶縁体への相転移であり、新しいタイプの光誘起トポロジカル相転移と言える。この内容はホール伝導度の計算結果も含めて現在論文を投稿中である。 並行して、二周期外場を駆動した3次元トポロジカル絶縁体の理論研究を行った。周波数ωと2ωの円偏光を同時に入射した3次元トポロジカル絶縁体において、エネルギーの異なる2つのワイル点が存在するフロケ・ワイル半金属相への相転移を予言した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は強相関系の光誘起トポロジカル相転移を理論的に予言することである。その中で我々は以下の3つの理由からα型の分子配列を持つ有機導体を対象として研究を進めた。一つ目は大きな格子定数を持つことである。フロケ理論による解析から大きな格子定数を持つ物質において光電場の効果が実効的に増強されることが示されている。2つ目はフェルミ準位近傍の4つのバンドが他のバンドと孤立しているためフロケバンド同士が重なり合うことのないオフレゾナントな状況を実現しやすいことである。3つ目は適度に複雑な結晶構造と電子構造を持つため、光の偏光角度などに敏感に依存する現象が起こり得ることである。こうした理由からこの物質は近年盛んに研究されている光を用いた物性制御の理論研究の発展に資する物質であると推測し、直線偏光を照射した有機導体における創発的反平行磁束量子ペアの対消滅現象や、楕円偏光の照射時に起こるディラック点対の衝突・崩壊に伴う新しいタイプの光誘起トポロジカル相転移といった興味深い現象を予言することができた。これらの内容は本研究課題の目的である「強相関系の光誘起トポロジカル相転移の理論的予言」と言える内容であり、これらの内容で2本の論文を掲載することができた。さらに、これらの成果で数多くの学会発表を行い注目を集めることができた。これらのことから、本研究課題は、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、直線偏光を照射した有機導体において創発的反平行磁束量子ペアの対消滅が起こることと、楕円偏光を照射した有機導体においてディラック点対の衝突・崩壊に伴う新しいタイプの光誘起トポロジカル相転移が起こることを理論的に予言した。これらの理論研究はフロケ理論を用いて時間に依存する非平衡定常状態の問題を時間に依存しない定常状態の問題に置き換えて行ったものである。より具体的には、時間周期系に対してその周期に合わせたストロボストピックな時間発展を与える有効模型を構築して計算を行った。そのため、この有効模型を用いた解析はストロボストピックな観察であり、本当に光照射下の非平衡定常状態を記述できているかという問題が自然に湧いてくる。そこで今後は、我々が予言してきた創発的反平行磁束量子ペアの対消滅や新しいタイプの光誘起トポロジカル相転移を、スペクトルや輸送特性の時間発展を計算することでフロケ理論で得られた結果が妥当であるかを確かめる。さらにレーザーの入射のさせ方や散逸の影響などで現象がどのように変化するかを光照射した強相関系の非平衡ダイナミクスという観点で考察する。 この研究と並行して、異なる周波数の円偏光を同時に照射した3次元トポロジカル絶縁体の理論研究を引き続き行う予定である。現在までの研究で、3次元トポロジカル絶縁体相からエネルギーの異なる2つのワイル点が存在するフロケ・ワイル半金属相に相転移することを明らかにした。今後は、この2つのワイル点のエネルギーの違いが輸送特性に与える影響を考察する。最終的にはこのエネルギーの違いを輸送現象から観測する手法を含めて論文として発表することを目指す。
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