研究実績の概要 |
当該年度は惑星着陸機搭載のためのレーザ同位体分光法(LAMIS)の原理実証試験に向けて、LAMIS装置の実験室モデルの製作を行った。 まず、主に工学の分野において開発されてきたLAMIS装置(e.g., Bol'shakov et al., 2015)の条件と照合し、惑星探査搭載のために本装置を小型化するにあたって必要な光学系の性能を決定した。具体的には、従来のLAMIS装置には高強度のレーザー(200 mJ)が用いられてきたが、このようなレーザはサイズ・重量が大きく、探査機搭載には不適である。これまで探査機に搭載されてきた小型レーザは強度~20 mJ (e.g., Mizuno et al., 2017)である。そのため、LAMISに必要な感度を達成するには、レーザをより小さな面積に集光したり、より広い角度の光を集めたりするような光学系の製作が必要であることが分かった。また、C-NやO-Hの分子線スペクトルをシミュレーションし、分光に必要な波長分解能を明らかにした。 このような高感度を達成するため、高い開口数の対物レンズを用いて試料表面で発生したプラズマの光を集光する光学系を製作し、高分散型の分光器(3600 gr/mm; 解像度~30 pm)に入射するシステムを開発した。このシステムの感度を試験するため、パルスレーザ(強度20 mJ)を用いて励起したプラズマ発光スペクトル中の原子線を測定した結果、従来の1メートル以上離れた遠隔地の測定のために最適化された光学系(e.g., Wiens et al., 2013)よりも二桁高い感度を達成できていることが確認できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はLAMIS装置の実験室モデルの検出器部をイメージインテンシファイア付きCCDカメラに置き換え、原理実証試験を行う。本CCDカメラのノイズレベルを重水素ランプを用いて評価した後に、実際に真空中におけるプラズマ発光中のC-NとO-H分子線の検出を実証する。これらの検出において、真空中で最も良いS/N比で分子線スペクトルを測定できる計測条件を決定する。具体的には、1) 遅延パルス発生器を用いて、プラズマ発光の時間発展の中で最も分子線の強度が強くなるタイミング、2) スペクトルの積算数の真空度に対する依存性を明らかにする。 その後、惑星探査を想定した試料(CaCO3・Na2CO3などの塩や固体有機分子について同位体比を調製した試薬)を真空下で測定し、元素組成(C, N, H, O)と同位体比(D/H 比, δ13C, δ17, 18O, δ15N)の検出限界と精度・確度を導出することで、探査機搭載 LAMIS の揮発性元素分析性能を決定する。
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