研究課題/領域番号 |
21J20894
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
湯本 航生 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | プラズマ発光分光 / 水素 / LIBS / LAMIS / 惑星探査 |
研究実績の概要 |
前年度までに製作した装置を用いてレーザー誘起プラズマの分光測定を行った。本装置は将来の惑星着陸探査機に搭載することを目指して、小型軽量設計された(サイズ350 x 300 x 170 mm3、重量6 kg)。本研究では様々な化学組成を持つ岩石あるいはその粉末を用いて、レーザー誘起プラズマを真空中で分光測定した。これらの測定結果をもとに、試料の物理化学状態と水素原子線強度の関係を明らかにした。 この結果、水素原子の輝線強度はバルク元素組成による影響が大きいことが分かった。最も強いHα線(656 nm)のみを用いて検量線を引いた場合には測定誤差が大きくなる(±1.9 wt%H2O;水素の等価水分量)ことが示唆された。測定誤差を改良するための手法として、多変量解析手法、マトリックスマッチ法を開発した。多変量解析法は部分最小二乗法を用いて分光スペクトル全体の回帰分析を行い、水素濃度を定量する手法である。マトリックスマッチ法はバルク元素組成が似た試料のみを用いて検量線を引く手法である。これらの手法を用いたところ、測定誤差が±0.9 wt%H2Oまで改善することを示した。 更に、試料の物理状態による影響についても予備的な結果も得られた。特に粉末試料の水素輝線強度は、岩石試料よりも1桁大きくなるという現象を発見し、月面での氷を高感度で検出できる可能性が示唆された。 本年度の研究から、水素の原子線強度は他の原子と比較して物理化学状態の影響を強く受けることが分かったが、校正手法の改良によって影響を小さく抑え、高精度の分析ができることができることを明らかにした。この結果は、事前情報が少ない惑星表面物質においてもレーザープラズマ分光法によって水素量を正確に測定することができることを示している。これらの成果を複数の学会及び論文にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
真空中でのプラズマ発光分光から精度良く定量分析を行うための惑星探査機搭載品を模擬した装置及び基礎的なデータの校正手法を開発した。月面など大気がない天体においてもレーザー誘起プラズマ分光を用いることで揮発性元素の定量分析(例えば水素の場合1wt%H2O以下の精度での分析)が行えることを実証できた。本年度は水素の原子線にのみ着目した研究を行なったが、同様の手法は他の元素・分子の発光輝線にも適用可能であるため、本研究課題で最も大きな課題であった手法開発の部分を一通り完了できたと考えている。計画段階では分子線の測定実験を優先して行う予定であったが、分子線よりも何桁も明るく、検出が容易な原子線の測定の時点で高精度の定量分析を行うにはマトリックス効果(試料の物理化学状態によって輝線強度が大きく変化する効果)を校正する必要があると分かったため、データ校正手法の開発を優先して取り組むこととした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの水素の原子線に着目した研究から、真空中でのプラズマの輝線強度は試料の物理化学状態に強く影響されることが分かった。この結果を受けて、原子線と比べて何桁も暗い分子線を用いた同位体比の測定を行うよりも先に、試料の物理化学状態の影響を小さくできるようなプラズマ分光スペクトルの基礎的な校正手法の開発を行わなければならないことが分かった。そのため、本年度も継続して校正手法の開発を主に行なっていく方針である。具体的には、惑星表面物質中の揮発性元素を分析するためには主要元素組成が似た試料群を用いて校正することが有効であると分かったため、プラズマ分光スペクトルから主要元素のバルク組成も同時に測定できることを実証する。 これと並行して分子線の測定実験も進める方針であるが、上記のような研究の進展結果から、当初想定していた同位体の分析精度の達成は難しい可能性があると考えている。その場合であっても、プラズマ分光法は広範囲の領域をトリアージできるため、定性(半定量)分析であっても惑星探査機への搭載価値がある。実際にNASAの火星探査ミッションでは地球へ持ち帰る試料を決定したり、ローバーの走行路を決定したりするためにプラズマ分光による定性分析結果が重要視されている。そのため、想定された分析精度が達成されなかった場合においても、地球外試料中の炭素同位体(13C)の輝線を検出するための装置の感度や観測条件を明らかにする方針である。
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