研究実績の概要 |
本年度は深層学習モデルの開発環境構築に加え、①チョウ標本画像の撮影, ②既存手法のチョウ標本に対する汎用性の検証, ③擬態/非擬態の定量的判断を行った。具体的には、 ① 東京大学総合研究博物館において、南西諸島に棲息するアゲハチョウ科・タテハチョウ科のうち32種各種10個体以上のチョウ標本を撮影し、将来的に深層学習モデルの開発に必要となるデータセットの作成を行った。 ② これまで生物の類似度評価においては、イラスト化された画像でのみ有効性が報告されていた、深層学習に基づく画像間類似度指標LPIPSを①で収集したチョウ標本画像に対して用いた。LPIPSは複数の学習済みネットワークに基づくものを利用し、出力の頑健性を考慮した。その結果、LPIPSは図鑑に記述されている雌雄差の度合いや、捕食実験でも示されている既知の擬態関係を再現していた(いずれのネットワークを用いた場合でも、擬態している組み合わせの方が擬態していない組み合わせに比べてLPIPSが小さく、類似していることが示唆された)ことから、チョウ標本画像の類似度評価にも有効であると考えられた。 ③ ②で得られた既知の擬態関係に関するLPIPSの値を元に、擬態/非擬態の判断が難しい事例に関して定量的な評価を行った。その結果、先行研究で前提とされていた擬態関係を支持しない結果も得られ、AIが先入観に基づかない類似度評価に役立つ可能性が示唆された。
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