最終年度は主に、畳み込みニューラルネットワーク(以下、CNN)を利用して生物画像間での類似度を算出する既 存手法の課題解決を試みた。これまでの先行研究で、CNNは生物画像からの網羅的な特徴抽出を可能にし、擬態形質の定量化を初めとした様々な形態解析に応用可能であることが分かっていた。しかしながら、CNN に特徴抽出を学習させるうえで、 対象とする生物に関する大規模なデータセットが必要であることは、取得できるデータ規模の限られる分類群への適用においてはハードルとなることが考えられる。そこで、CNNによる画像分類に必要な「学習時間」に着目し、「学習完了に時間のかかるクラス同士は類似していると考えられる」ことを利用した新規類似度評価手法の開発をおこなった。その結果、本手法はチョウ類の類似度評価においてCNNを利用した先行研究の手法(Learned Perceptual Image Patch Similarity、以下LPIPS)よりも高い精度を示したうえ、ベイツ型擬態の定量化においても先行研究の精度を上回った。本手法は類似度評価をおこないたいクラスのペアについて 10 枚ずつ程度の画像があれば実現可能であることから、データセットの規模が限られる対象においても有用な類似度評価指標となり、擬態形質の解析レベルを向上させることが期待された。 研究期間を通じて、1) チョウ類標本画像間からの類似度評価において既存手法を比較検討した上、新規類似度評価手法を開発し、擬態形質定量化への応用および精度の向上を実現した。 2) 既存の類似度評価手法(LPIPS)を応用し、過去におこなわれた捕食実験の結果を元に捕食者から見て擬態の完成度が高い/低い形質を網羅的に探索できる手法を開発した。
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