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2022 年度 実績報告書

聴覚シグナル増幅機構の分子基盤の解明

研究課題

研究課題/領域番号 21J20958
配分区分補助金
研究機関東京大学

研究代表者

二又 葉音  東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)

研究期間 (年度) 2021-04-28 – 2024-03-31
キーワード聴覚 / 膜タンパク質 / 分子モーター / クライオ電子顕微鏡 / 単粒子解析 / 構造生物学 / SLC26ファミリー
研究実績の概要

「聴覚シグナルの分子機構の解明」を目指し、タンパク質の構造およびその機能を解析する実験を行い、申請者を筆頭著者として論文を掲載した。
聴覚とは、空気振動が耳で電気シグナルに変換されるメカニズムである。内耳には受容した音を増幅する仕組みがあり、外有毛細胞の伸縮運動がその実体だと考えられている。この細胞伸縮を引き起こすモータータンパク質がprestinで、音に同期した電位変化に応答してモーター運動をする。Prestinのモーター運動に我々の聴覚の鋭敏性は支えられており、機能を欠損すると難聴の原因になることが確認されている。
我々はクライオ電顕を用いた単粒子解析により分解能3.5~3.6Åでprestinの構造解析に成功し、モーター運動の動作モデルを提唱した。
Prestinのモーター運動には塩化物イオン、硫酸イオン、サリチル酸などの生理基質が関わっており、これらをそれぞれ加えた構造解析を行うことで、pretinの構造を3状態について取得した。Prestinは膜貫通ドメインと細胞内のSTASドメインからなり、それらが互いに交差した2量体であることが明らかとなった。膜貫通ドメインの中央には、基質がアミノ酸残基の静電的相互作用によって保持されていることが確認された。さらに、こうした基質の結合によって、ドメイン間の水素結合相互作用ネットワークが変化することが示唆され、電気生理学的にprestinの機能を解析することで確認された。Prestin分子が塩化物イオンを保持する機構は分子動力学シミュレーションによっても再現された。以上の結果を踏まえ、基質の結合がprestinのモーター運動を制御するモデルを提唱した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

Prestinの構造解析、および構造情報に基づいた機能解析を行い、成果を論文として発表することができたため、順調な進展だと考える。
Prestinは、外有毛細胞の伸縮運動が発見されてから40年の間非常に多くの興味を集めてきたモーター分子であるが、その立体構造の解析についてはタンパク質としての不安定性に起因する大きな障壁があったため、分子のモーター運動の動作原理には謎が多かった。本研究でクライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析でprestinの構造解析に成功したことで、分子機能についてこれまで得られなかったような仮説を立てることが可能になった。そして、立てた仮説を実際に電気生理学実験や分子動力学シミュレーションで実証し、論文として発表することができた。

今後の研究の推進方策

Prestinやその機能に関わるタンパク質について、構造情報に基づいた機能解析を行う。
これまで塩化物イオン、硫酸イオン、サリチル酸の結合状態の構造解析を行い、それぞれの状態を比較することで分子の構造変化を観察して、基質の結合に伴って起こる構造変化のモデルを提唱した。一方で、生体内の環境において、prestinは外有毛細胞において細胞骨格などの内部構造と相互作用し、細胞膜に固定されることで外有毛細胞の伸縮に寄与すると考えられている。今後の研究では、提唱したモデルの生体内での妥当性を示すため、prestin分子そのものに加えて、prestinとともに相互作用して協働するタンパク質の影響にも着目し、構造・機能の解析を行う。
以上の研究により、聴覚を支える分子基盤について、より包括的な解明を目指す。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2022 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)

  • [国際共同研究] Northwestern University(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      Northwestern University
  • [雑誌論文] Cryo-EM structures of thermostabilized prestin provide mechanistic insights underlying outer hair cell electromotility2022

    • 著者名/発表者名
      Futamata Haon、Fukuda Masahiro、Umeda Rie、Yamashita Keitaro、Tomita Atsuhiro、Takahashi Satoe、Shikakura Takafumi、Hayashi Shigehiko、Kusakizako Tsukasa、Nishizawa Tomohiro、Homma Kazuaki、Nureki Osamu
    • 雑誌名

      Nature Communications

      巻: 13 ページ: 6208

    • DOI

      10.1038/s41467-022-34017-x

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著

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公開日: 2023-12-25  

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