研究課題/領域番号 |
21J21001
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配分区分 | 補助金 |
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
峯 大典 東京大学, 学際情報学府, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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キーワード | 多感覚知覚 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、人間の身体周辺に提示される多感覚刺激の処理を元に人間と外界の干渉を支える働きを持つ身体近傍空間と、人間の身体に関わる知覚や意識との関係性を明らかにすることであった。 令和4年度は身体近傍空間内における視触覚刺激の処理と身体情報の関係を検証する実験を行った。本実験では、バーチャルリアリティ(VR)技術を用いて実験参加者の右手を身体中心で左右反転させて提示することで、視覚と体性感覚の矛盾を発生させながら、触覚刺激の位置判断課題を行なった。本実験の結果からは、視覚と触覚刺激の処理はそれぞれ異なる手の表象と結びつけて処理される可能性が示唆された。本研究成果に関して論文の執筆を行い、国際的な査読付き学術論文誌に投稿済みである。 また国内の心理系学会において、現実空間及びVR空間における身体と空間の認知に関するシンポジウムの話題提供者を務め、本研究プロジェクトに関わる研究を中心に講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は身体所有感や自己主体感などの身体意識と身体近傍空間との関係を解明することであったが、今年度は身体意識と身体近傍空間の両者を支えていると考えられる多感覚処理のプロセスの解明を目指した。バーチャルリアリティによる手の視覚情報の操作を用いて視触覚刺激の処理メカニズムを解明するための実験を多数の実験参加者に対して実施した。この実験を通じて、視覚と触覚刺激の処理はそれぞれ異なる手の表象と結びつけて処理される可能性を示唆する結果が得られた。人間の身体表象認知、および身体意識を理解する上で欠かせない多感覚刺激の処理プロセスについて、行動実験に基づき十分な検証を進められており、おおむね順調に進展していると自己評価している。 さらに上記の研究については、すでに論文を執筆済みであり、現在国際的な心理学ジャーナルに投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
次度は、身体近傍空間内における多感覚刺激の処理過程をより詳細に検討するため、脳波測定器(EEG)を用いて視覚と体性感覚(運動)情報の多感覚統合プロセスの解明を目指す。多感覚統合の処理過程として提案されているベイズの定理に基づくモデルでは、まず二つの感覚入力が同じ発生源から生まれているか、もしくは異なる発生源から生まれているかを判断し、感覚入力を統合するか否かを決定するというものである。このベイジアンモデルは様々な多感覚統合に関わる行動実験の結果をうまく説明することが知られている一方で、神経活動レベルでの妥当性は十分に検証されているとは言えない。今年度の研究では、身体に関わる視覚および運動情報の脳内処理がこのモデルに従うかどうかを検証することを目的とする。 具体的には特定のターゲットに対して手を伸ばすリーチング課題を行う際に、バーチャルリアリティを用いて手の視覚情報を操作し、実際の手の動き(体性感覚および運動情報)から少しずらして表示する。この課題中にEEGで脳波を計測し、脳内の高次視覚情報の処理領域と運動領域の活動を記録する。リーチング課題の結果をもとにベイジアンモデルを使って感覚入力の発生源が同じと判断しているか否かを計算し、その結果と高次視覚情報の処理領域と運動領域の脳活動を比較することで、神経活動レベルでのモデルの妥当性を検証する。
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