研究課題
本研究の目的は炭素数が奇数の脂肪酸、特に炭素数が15の直鎖飽和脂肪酸(ペンタデカン酸、C15:0)による分裂酵母Schizosaccharomyces pombeの生育抑制メカニズムを明らかにすることである。前年度までの成果により、C15:0が生体膜の脂質組成を攪乱して小胞体の形態異常を引き起こし、それによって種々の細胞プロセスが適切に進行しなくなり細胞死に至ることが示唆されていた。2023年度はこの作用モデルのさらなる検証を進めた。まず、C15:0感受性が変動すると確認されていた遺伝子変異株で小胞体の形態観察を行った。その結果、C15:0耐性を示す変異株ではC15:0処理しても小胞体の形態異常は誘導されないことが分かった。したがって、小胞体の形態異常がC15:0による生育阻害の主要因であることが示唆された。また、生育阻害活性をほとんど示さないC15:0以外の脂肪酸で処理した野生株細胞のERを観察したところ、C15:0で誘導される表現型は見られなかった。すなわち、少なくとも野生株においてはC15:0が誘導する表現型はC15:0に限定的なものであることが分かった。これらの結果により上述のC15:0の作用モデルがさらに支持された。様々な変異株を用いて解析を進める過程で、興味深いことに一部の株に対してC15:0以外の飽和脂肪酸も同様の効果を示すことが判明した。例えば、脂肪酸の不飽和化が抑制された変異株では炭素数14のミリスチン酸がC15:0と同様表現型を誘導することが明らかになった。この結果はC15:0が誘導する表現型は飽和脂肪酸の蓄積による細胞毒性(脂肪毒性)として一般化できることを示唆した。脂肪毒性とは酵母に限らずあらゆる生物種で見られる現象である。将来的にはC15:0がS. pombeに対して示す活性をモデルに脂肪毒性研究を展開できると期待される。
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