本研究の目的は、貧困者の救済における論争の分析を通じ、貧困者の救済を否定する言説の総体を導き出すことである。 本年度は特に、貧困者の救済を否定する言説のうち、近年の代表的な自己責任論と、自己責任論への対抗の役割が期待された子どもの貧困論との間の関係を分析し、上述の目的に取り組んだ。 主な知見は以下の2点である。第一に子どもの貧困論と大人の貧困における自己責任論の両方について、それらの推移を分析した。その結果、子どもの貧困論が大人の貧困における自己責任論の抑制に接続していた可能性は否定できないものの、その程度は限定的であったと考えられるという知見が得られた。第二に、子どもの貧困言説と大人の貧困言説を繋ぎ合わせるレトリックを分析した。結果として、子どもの貧困と結びつける対象としての「大人」の範囲は、子どもの親かせいぜい親世代のみに限定されていることが明らかになった。 なお上述の知見をまとめた論文は採録が決定している。
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