本研究の目的は、貧困者の救済における論争や意識の分析を通じ、貧困者の救済を否定する言説や意識の特徴を明らかにすることであった。研究期間を通じて行った研究内容は以下の2つに整理できる。 第1に、貧困者の救済を否定する言説のうち、近年の代表的な自己責任論と、自己責任論への対抗の役割が期待された子どもの貧困論との間の関係を分析した。主な知見は以下の2つである。まず、子どもの貧困論と大人の貧困における自己責任論の両方について、それらの推移を分析した。その結果、子どもの貧困論が大人の貧困における自己責任論の抑制に接続していた可能性は否定できないものの、その程度は限定的であったと考えられるという知見が得られた。次に、子どもの貧困言説と大人の貧困言説を繋ぎ合わせるレトリックを分析した。結果として、子どもの貧困と結びつける対象としての「大人」の範囲は、子どもの親かせいぜい親世代のみに限定されていることが明らかになった。 第2に、ある貧困者が救済に値すると判断されるかどうかについて、貧困者の状況をランダムに変化させるサーベイ実験を活用した検討を行った。貧困者の状況として特に着目したのが子どもの有無である。貧困者に子どもがいることは、社会的投資の観点からすれば、行政による支援の対象とみなすことができる一方で、家族主義の観点からすれば、貧困者本人の自助の対象とみなされることになる。分析の結果、貧困者に成績が優秀な子どもがいること行政による救済責任を強化する効果がある一方、子どもの成績や性別を問わず、貧困者に子どもがいることは貧困者への帰責を強化する効果がみられた。従来の社会的投資と家族主義に関する議論では、両者は両立し得ないと考えられてきたが、本研究の知見はそれが両立しうることを示すものであった。 本研究助成によって得られた主な成果は以上のとおりであり、いずれの成果も査読あり論文として掲載されている。
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