本研究は,複数の感覚の相互作用により知覚が変化するクロスモーダル効果を利用して,風覚ディスプレイによる風表現を拡張することを目的とした.本年度は,これまで明らかにした風向知覚や風の印象の知覚変化に加え,風速や風温の知覚変化を生起させる多感覚刺激の提案と検証実験を実施した. 年度中に国際学会への発表2件(主著1,共著1),国内学会への発表1件(共著)を行った.また,受賞1件,テレビ番組での報道1件,インターネットメディアへの記事掲載1件があった."WearSway: Wearable Device to Reproduce Tactile Stimuli of Strong Wind through Swaying Clothes"では,強風による衣服の振動を再現することで実際にはない強風を知覚させる装着型装置を提案した.この論文は国際学会SIGGRAPH Asia 2024における体験展示Emerging Technologiesに採択され,3日間のべ150名の来場者に体験していただいた. 本研究を通じて,視聴触覚間のクロスモーダル効果を利用することによって,多様な風感覚提示が可能であることを示す当初の目的が達成された.本研究で提案した,間接的に風の発生や作用を表現し風を想起させる多感覚刺激の設計方針は,身体やアバタ,風そのもの,風源,周囲環境などバーチャル環境の様々な部分に適用でき,その有用性が明らかになった.本研究の成果により,風知覚の変化を活用した簡易な装置による風覚ディスプレイの実現に繋がり,幅広いVRコンテンツにおける風覚の活用促進が期待される.風の快適性が重視される空調やリラクゼーションの分野に対しても,多感覚刺激を取り入れて快適感を向上させるための知見として,クロスモーダル効果を用いた風覚刺激提示の考え方を応用できる.
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